審神者ではない才能を持った少女 | ナノ






「妹様、それはいったいどういう事で…」

「私めからお伝え致します。姉上であらせられる審神者様は規定を破り、逮捕…という形になりましたが、罪のない妹様も自ら逮捕を望んでおる…ということでございます」
苦虫を噛み潰したような表情でそう苦し紛れに言うこんのすけに政府は唖然とした。


「いや、こんのすけ。罪のない…なんて事ないよ。私は姉の行動を知っていたのだから、止めなかっただけで、立派な共犯。政府の方々もご納得いただけると思います」
政府は対応に困った。
確かに知っていたのに止めなかったのは立派な共犯にはなる。しかし今回逮捕を命じられたのは姉である審神者のみ。妹は審神者でないことから罪を免れることが出来る。はたして上の許可もなく勝手に妹まで逮捕して良いのか…と。

「上の許可を取ってみます…が、許可が降りるとは限りません。本人の希望であっても逮捕というのは特定の重大な規律を乱した者のみ言い渡されるものなので、妹様もご一緒に…というのはわかりかねます」
何故そんなに、と到底理解できないと政府たちは顔を見合わせる。



「なに…私が、逮捕ってどういうこと…?」

意識をはっきりと取り戻した姉である審神者は政府から言い渡された事が逮捕だということにまだ現実を受け止めきれていないようだ。
徐々に状況を理解したようで、顔は絶望したように歪み、怒りを見せ始めた。


「な…んだって、言うのよ…?私が何したってのよ!?道具を少し乱暴に扱ったくらいで逮捕ですって?冗談じゃないわよ!!」
政府に怒鳴りつけた後に私の方に体と憎しみの籠もった視線を向けて、キッと睨む。

「元々、アンタが悪いんじゃない!!!あんたが、あんたが私の才能まで全て奪っていくから…!!だから、私は取り返しただけじゃない!!アンタさえ居なければ…こんなことにはならなかったのに…っ!」

「……、お姉ちゃんは変わらないんだね」

最後まで期待した私が馬鹿だったのだろう。

怒り狂って姉は私の首を締めてきた。今更私の存在を消したところで居なかったことには出来ないのに。私を殺したって、才能なんて姉に渡らないのに。悲しくなって、目を瞑った。
私の首を締めてきた瞬間、見ていた一期が自分の痛覚など振り切るように肩に刺さった刀を抜き、立ち上がっては姉に斬りかかってきた。




「主殿にそのような愚行を働く者は万死に値する…去ね」




人は…神様は怒りを通り越すと静かになるのだろうか。

一期の言葉はとても静かで、しかし冷徹でこちら側にも突き刺さるほどだった。先ほどの邪気とは比べ物にならないほどの憎しみの籠もった気に息苦しくなる。政府もそれがわかったのか、瘴気に当てられて胸を抑えて倒れこむ者も居た。

咄嗟に検非違使が立ち塞がるが、検非違使をも一瞬で真っ二つに切り裂いた。なんて恐ろしい力なのだろう。一期に限らず、ここの刀剣たちは皆練度はそんなに高くない。
それなのに上級審神者でも苦戦を強いられる検非違使を一撃で真っ二つにしてしまう力。いつの間にか、一期の綺麗な黄金色の双眼の片方は赤く光っていた。
それを見た姉は恐怖で足が竦んだのか、私の首を締めるという行為を忘れて悲鳴を上げて座り込んだ。じりじりと這いずりながら後退する。

そんな姿を見て、一期はにんまりと笑った。



「嗚呼、なんと無様なお姿なのでしょうなあ…!お前にはそれがよくお似合いですよ。ふっ、ふふ…ははは」
笑いながら這いずって逃げる姉にゆっくりと近づき、刀を振り上げる。

「散々…弟達を傷つけて、楽しかったですか?妹殿から力を頂いて良い気分だったでしょう?」

「ひっ…や、やだ、何でアンタ私に傷をつけられるのよ…っ!?契約したはずでしょ!?”一期一振、その刀を納めなさい!!”」

「はァ?ははははは!三日月殿に神気を送られた事もお気づきでないのですか?実に滑稽で、可愛らしいですなぁ貴方は」
その身に刻み込んで、確かめれば良い。と言って刀を振り落とそうとする一期の前に私は咄嗟に立ち塞がった。

手を広げて姉の前に立ちはだかった私に一期は驚き、振り落とそうとする腕の動きを止める。禍々しい赤の瞳が細められた。


「どうか致しましたか主殿。そこに居る人間はもはや貴方の姉などではございませんよ?人の形をした欲望の塊です。どうか、そこをお退きください」

「嫌と言ったら?」

「弱りましたな、何故庇うのです?この女は貴方のことを殺そうとしたのですよ?庇う必要がどこにあるのですか?」

「貴方がそう言おうとも、これは私の姉なんです。私が責任をもって後始末しなきゃいけないんですよ。貴方だってわかるでしょう、弟の不始末を兄である貴方が責任を持つと」
妹でも責任はあるんですと一期の赤と黄の瞳を強く見返した。


「…、そこで弟の話を出すのは少しばかり卑怯ではないですか」
くしゃりと悲しそうに顔を歪める一期に、そうだったねと私は薄く笑う。

とにかく、姉は殺させないということだけは変わらない。処罰をやめさせるつもりはない。そこはやはりきちんと反省してもらいたい気持ちが強いからで、私もまた、足を洗わなければいけない。この世界とも、今までの自分をしっかりと掴んでいた腕の力を抜く。

処罰の内容については現世に帰ってからお願いし、一刻も早くこの場所から離れるように政府に言えば、状況的に危うかったのか直ぐ様それを承諾した。検非違使も一期一振の一撃で殺されてしまうほどの闇に包まれた本丸。このような場所から政府は一刻も早く抜け出したかったらしい。現世ゲートを開き、入るように促してきた。
恐怖で震えた姉を政府の人たちは抱えてゲートを潜らせる。後ろから私が行こうとするのを止めようとしているのか、一期が立ちふさがる検非違使を斬りながら必死に訴えかけてくる。それでも私は足を止めなかった。




















背後から政府の人の悲鳴と検非違使が一斉に倒れる音を聞くまでは。























私は  鼓動の音を早まらせながら  振り返る。















「主よ、一体どこへ行く?」





















綺麗に微笑む口元に瞳の中の三日月が怪しく光るその人物を見て、私は声にならない恐怖をその身に、まるで逃げられないような畏れを浴びたのがわかった。