審神者ではない才能を持った少女 | ナノ






才能に呑まれる事なかれ。


幼少期から才能の持った私に言われてきた言葉である。

力を持ったが故に人は欲望に忠実になる。あれやこれやに手を出し、自分のものにしていく。何かを得るということは人にとってとても満足感、達成感など自分を満たす事となる。その快感を知ったが最後、麻薬のように才能は体に少しずつ毒を回していく。
最後には金に塗れ、狂ったように笑う人形に成り果ててしまうだろう。そう、私の父のように。
父は才能ある者。神は何故平等に力を与えないのだろうか。今となってはその答えなど無に等しかった。
自分が何でも出来るということを段々と自覚し、金や女に困ることはなかった。だから知らないのだ。苦労という言葉を。
遊んでいた女が身籠った事で生まれたのが私達であり、家族崩壊の一歩を既に踏み込んでいた。侵食は猛毒のようにあっという間で、破壊の足音はすぐ近くまで来ていたのだ。
ある意味、家族は、神は私に教えてくれたのかもしれない。世の中の残酷さ、というものを。
要らなかった。そんな残酷など。…とは言えなかったのだ。
離れ離れ…とは離婚ということでも、この本丸に来て遠くに離れてしまったということでもない。深い意味はなかった。本当にそう感じただけだったのだから。





事故。





学校から帰ってきた時、紺色の帽子を被り、堅苦しい服に包まれたおじさんに言われた言葉はそれだった。
家で父と母が口論となり、大喧嘩した際に二人でベランダから転落死というものだった。それを伝えられた時、私は驚くほど冷静だった。人が死んだのに、家族が死んだのに、何故か涙も出なかった。悲しくも、苦しくもなかった。薄情者なんて言われても仕方がない。人が死ぬということは唐突で、そして理解不能だと。
警察には事故ということで片付けられたが、私は事故ではないと思っている。
確かに口論になって殴り合いの大喧嘩になったことも確かだろう。そしてベランダから落ちて亡くなったということも確かだ。けれど、それが事故だとは思わなかった。
故意に相手を落として自分も死んだとしたら…そう考えたらすとんと何か辻褄が合ったように納得がいった。
才能ある父が子供も妻もろくに構わないとんでもない人間で、母が才能など無い非力で平凡な人間で、ある日、父が子供や妻を捨てて出て行くと言い始めたら…母はどうしただろう。
机の上には父親が欲望のままに使っていたであろう金が入ったカードが置いてあった。横には丁寧にメモで暗証番号が記されている。
私は気付いてしまったのだ。こんなあからさまなことを。警察もわかっていたはずなのに、きっと面倒だからと事故で片付けてしまったのだ。

自分も道連れに父親を殺した。

それしか浮かばなかった。


何故母まで死を選んでしまったのか、今思えばわかった気がする。
あんな父親でも愛していたから、そんな想いが責任となり私達に合わせる顔がなかったのではないかと。
思えばかなり自分勝手な理由だけど、確かに父だって最初から悪い人間ではなかった。優しかったのだ。ただ、それが才能によって呑まれてしまったということで人が変わってしまった。
優しかった父はわからない。だけど、母は知っていた。きっとまた優しい夫に戻るだろうと、ずっと願っていた結果、このような自体に陥り、一緒に連れて行ったのだと思うと本当に自分勝手だなって。
だけど、重なってしまったのだ。今のこの状況と母の状況が。デジャヴュとはまさにこのこと。望んていたわけでも、結果を知っていたわけでもない。この状況を作ってしまったのは紛れもなく、私であるから。
父と母のこの出来事が無ければ私は父親のようになっていたのかもしれない。不謹慎な言い方ではあるが。だからわかるのだ、才能がいかに大きなもので、それだけの器があるかどうか。姉が狂ってしまったのも、欲望に渦に呑まれて自分を失ってしまったせい。

決断した気持ちをかき乱す刀剣たちに私は驚いた。皆口を揃えて言う。貴方は悪くないと。
それは単に私が刀剣たちに精神的苦痛を与えていないだけで、悪くないとは言えない。だけど、また繰り返す前に終わらせなければならない。そう強く思ったから。