04






「先程から殺気がこちらに向かってズバズバ突き刺さってるんだけどさ、いきなり入ったらこれ切られそうだよね。入った瞬間ブラックアウトだよね」

「ここの刀剣たちには貴方の存在は伝えてあります。本丸と刀剣たちを修復に来る、と」

それでこんなに殺気立ってるの!?いきなり訪問だったらまだしも、事前に伝えてこんな状態!?

思わず頭を抱えた。うん、…剣術とか習っといてよかったな私。素人じゃあそこは冥界の入口だ。とてもじゃないけど入れない。


「とりあえず、こんのすけ…?だっけ、何かあったら呼ぶから体制だけは整えといてくれるかな?」

最初でこんなハードだなんてフラグ乱立だ。

こんのすけはもちろんでございます!とぴょんぴょんと跳ね、運営さんはにっこりと微笑み、よろしくお願いしますと一礼して消えた。


「さて…出陣だ」

いざ地獄へ!




入り口と思われる場所から入り込む。

「うわくっさ、なんだこれ!!!」


入った途端に血なまぐさく、腐敗臭。一瞬で吐き気を催すレベルの強烈な激臭に鼻と口を覆った。うん、ガスマスクつけてくればよかったね。

う”ぉ”お”え”え”と吐きそうになりながらも与えられた手伝い札をポケットにしまい込み、両腰に刀を装着して大広間へと向かった。


「…うん?」

あれ、普通大広間に居るもんじゃないのか?と首を傾げたが、大広間はもぬけの殻。血塗れの大きい布団が引いてあり、本棚など生活には不憫がない状態だった。これは審神者の部屋か?
周りは本当に血塗れ。血の匂いで充満していて、とてもじゃないけど深呼吸なんてしたらぶっ倒れる。

「すみませーん!!!掃除屋なんですけど、皆さんどこですかー!!?」

大声で言ったからきっと本丸中に聞こえてると思う。こそこそしたって結局は掃除とか刀剣の手入れとかしなきゃいけないらしいし、拉致が開かないからと思った瞬間の行動である。



当然、沈黙。

うん、わかってたよ。返事なんてするはずがないって。

とりあえず刀剣たちは後回しにしてこの本丸の見取りを覚えることと、掃除しよう。臭いけど、ずっと臭いよりは全然マシだし。


私は背負っていたリュックを下げ、中から三角巾と雑巾を取り出した。うん、三角巾をマスク代わりにすれば大丈夫だったわ。
鼻や口を三角巾で覆い隠し、ゴム手袋をはめて流しを勝手ながらも貸してもらおうと場所を探した。
というかここって水道なの…?昔ながらの井戸とかになってたりするの?そして私は井戸に突き落とされるフラグなの?と不安を抱いていたが、その不安はすぐ消え去った。


「何だ、あるじゃん」

設備は現代と変わらない。現代と言っても昔の…って感じだけど。

流しはちゃんとあって、先ほど見てきたが台所も炊飯器や鍋、フライパンなどひと通りの物は揃っているようだった。よかった、なかったらどうしようかと…。



いや、でも待って。

掃除するにも勝手に始めたら何事だってなるわけだよね。


「やっぱ刀剣探さなきゃ駄目かあ…」

別に隠れてるわけでもないだろうに。

殺気の方向を辿れば無事たどり着けるのだろうが、そんな自ら死にに来ましたこんにちはと襖を開けたくはないものなんだけれども!



「挨拶…そう、挨拶だから…」

挨拶挨拶と呪詛のように唱え、その殺気を放つ襖の目の前に立った。中の人たちもわかったのだろう、よその私が襖の向こうに居るということに。ごくりと唾を飲み込み、緊張のあまりか足が震えていた。
そこの何でもチートとか思った奴、メンタルはガラス並みだ畜生め。

そして緊張がピークに達すると私はとんでもない事をしでかす奴だ。自分で言っといて何だけど、ちゃんと自覚しておけばよかった。



「たのもおおおおおおおおお!!!!!!」

こうやって静かに入室許可を取らず、勢い良く開けて襖ごとぶっ壊すダイナミック入室をしてしまうということをな。

ぶっ壊れた襖は前にバタンと音を立てて倒れ、私は思考停止。向こう側も思考停止。緊張感というよりも唖然とした理解不能な空気が出来上がっていた。

ああ、これ、この後修羅場ですわ。この後私はめった刺しに刺されるパターンですわ。と何故か冷静に対処していた。悟りを開くっていうのは怖い。


襖の向こうには大広間よりも断然狭い部屋で、血しぶきは部屋中にベトベトと付着しており、床には重症を負って人の形が保てなくなった刀がいくつか置いてあった。

殺気の放つ方向に視線を向けると、刀を構える奴等や未だに唖然と呆けている奴等も居た。中でも目立ったのはその中でも立ち上がらず座って目をつむっている青の着物を着て、髪飾りをしている恐ろしい美貌を持った男。


…うん、アイツがボスっぽい。と私は心のなかで勝手に解釈し、そのまま突っ立ってるわけにも行かないと会釈した。

「すみません、緊張のあまり襖をぶっ飛ばしてしまいました。こんのすけから伝達は来ていると思いますが、掃除屋と申します。この本丸の修理とあなた達を手入れするという使命を受けて参りました。どうぞ、よろしくお願いします…」

当然返事はない、とてもよろしくしてくれる雰囲気ではないので肩を竦めて困った顔をすれば、誰かがここから出て行け。と言った。他の者もそれに肯定し、直ちにここから出て行くように言われたが、はいそうですかと出て行くわけにもいかない。
いきなりたのもおおおと大声で叫んで、挙句の果てには障子までぶっ飛ばしてしまったというのに、いきなり刺されるというお決まりな展開はなかったな、もちろん何事もない方が平和に解決できるからいいし、そういうベタな展開を望んでいたのではない。


「えー…と、それは出来ませんね。お仕事なので。別にあなた方の主になると言っているのではありません。先程も申し上げましたけど、あなた達の手入れとこの本丸を修理させていただくだけなので」

「言葉だけで信じられるとでも思ってるの?」

そう言ってあざ笑う新選組の羽織を羽織った青年。
なんだアイツすっげえゲス顔してるうぜえええええ

でも、いきなり突撃してきてはお前ら手入れして本丸修復するからよろしくな!と言われたとことで誰も信用するわけがないだろう。寧ろ、正しい判断だ。ここで、ありがとうございますと感謝をされても、あれ…ブラック本丸…あれ…?と自分で言っておきながら困惑しそうなので、やめてほしい。


「でもですね、ここもう少ししたら滅んじゃいますよ?そしたら必然的に貴方たちも消えることになります。審神者の居ない本丸は魂が抜けたものと同じ。長く放置しておけば崩壊するということはあなた方もわかっているのではないですか?」

「今更俺達が消えたからってなんだってんだよ…?もう俺達はこりごりなんだ、人間なんて…」

黒髪の長い髪をした男は悲痛な顔をして、そして怒りを秘めて静かに言った。

悲しみ、怒り、絶望、苦しみ、痛み…あらゆる負の感情がごちゃまぜになってそれはたとえ付喪神だろうとも身を滅ぼしていく。
様子を見れば、どうやらここの者達は死ぬことを恐れてはいないらしい……いや、中には恐れている者もいるか…。
投げやりな奴等や絶望して言葉が通じなさそうな奴等も居る。
これは掃除出来たとしても手入れをさせてくれるかどうか…難しいな。


「最初から手入れだなんて出来るとは思ってませんよ。とりあえず掃除させてくれませんか?それと、狭くて全然良いので一部屋貸していただけませんか?あ、食事とかは全部こっちで負担しますので大丈夫です」

刀剣たちが大丈夫ならば食事も家事も全て賄い、この本丸を機能させなければならない。こんな大人数一体どうしろと言うんだろう…自分の欲望のためにこんな苦痛を与えられるとは思わなかったぞ政府。おい、助けてくれ。


「俺は許したわけじゃねぇぞ」

「はあ、貴方がそう言おうともこっちは仕事なので無理やりにでもやらせていただきますよ」

出てけと言われて出てく馬鹿がいるか馬鹿!私だって本音は帰りたい一心なんだよ!

黒髪長髪の男を睨みつけると、私はとっとと終わらせたいがために、そのまま掃除道具を持って掃除に取り掛かろうとして、一旦足を止めて刀剣たちの方へ顔を向けて笑う。

「私を殺したければどうぞ、ただし…それなりに私も仕返しはしますので覚えておいてくださいね?」
その言葉に誰も返事は返っては来なかった。




prev back next

「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -