03
「じゃあ、ブラック本丸とやらに行こうか」
「…なんでジャージなんです?」
呆れる視線を送られる。
現在の私の容姿は目を前髪で覆い隠し、髪の毛はもさっとしていて、全身ジャージ。体操着でも通じそう。完全にコミュ症の根暗と言われても否定できない。
何故ジャージかと問われればそりゃあ、動きやすいから。の一択だろう。こんな戦場でオシャレなんてしてみろ、ケツ蹴り飛ばされて大怪我すんぞ。
「せっかく巫女の衣装をご用意したのに、そんなジャージなど…」
「そんなジャージなんて言うな!!これは私の相棒だぞ!!?」
性能はピカイチだ、異論は認めない。動きやすい上に軽い、着やすい。こんな素晴らしい相棒の上をいくものなんてない。
とりあえず巫女の衣装は持っていてください。と手渡された。それを私は背負っているリュックに仕舞いこんで、噂のブラックな本丸へと向かった。
「うわ……」
随分と歩いたな、疲れてきたと思い始めた頃にその目的地に辿り着いた。
どんな感じなのかと門を潜ってみると、流石の匠も悲惨な声を上げそうなくらい形が崩れていて、錆びれている。ホラーだ、心霊スポットだこれ。
昼に辿り着いたからよかったけど、夜だったら全力で帰ったわ私。しかも、なんか既に殺気みたいなのがビシビシとこっちに伝わってくるんですがそれは…。
奥の方から小さな狐がちょこちょこと走ってきた。
何この生物かわいい。寄ってきたので抱き上げてもふったら、やめてくださいって喋った。シャベッタアアアアアア!!!!!
「私めはこんのすけと申します。審神者の案内役を務めております」
なんだよ、政府のやつかよ。でももふる手は止まらなかった。
離してください!といい加減もふられる事に嫌気が差したのかじたばたし始めたので地面へと下ろしてやる。癒やされたのでまた触りたい。
「それで、今のこの本丸の現状っていうのはどういう…?」
こんのすけとやらの子狐に状況説明をしていただいた。
審神者は現在行方不明、放置期間は2ヶ月に近くもうすぐで刀剣たちは跡形もなく消え去ってしまうという。
以前の審神者はDVで刀剣たちを散々こき使い、暴力を振るっていたらしい。運営は厳重注意したものの、審神者は無視。どうやら全ての刀剣を集めていたみたいだが、弱いものは破壊したらしい。そして暫くして、審神者は行方不明。その状態が続き、引き継いで持ち直そうとした審神者も居るようだが数日間で断念。中には殺された者も居るという。その者の遺体が見つかっていない…というのだから察しはつくが…。
「思ったよりも酷い状況みたいだね…」
「ええ…貴方が来てくださらなければこの本丸ごと破壊する予定でした」
「そうもなるわな、こんなんじゃ」
運営が正しい。運営はクソとか言うけど、こればっかりは正しい。
放っておけば何人の犠牲者が出るかわからないし、おそらく付喪神たちは酷く憎しみや悲しみに溢れ、心を閉ざしてしまっているだろう。
「ちなみに、刀剣たちを修復した後、次の審神者に送られるって言ってたけど記憶は消せるの?その状態で他の審神者になんか渡したら大変な事になると思うけど」
「可能です、練度も記憶もリセットすることが出来ます。しかし、これは確実というわけではないので稀に記憶を持った刀剣がそのまま他の審神者に渡る事があるのは事実です。それはこちら側が現在解析中です」
記憶をリセットすることは最近では通常化しており、余程の未練や何か強い思いが無ければすんなりと記憶消去出来るらしいが、稀に記憶を完全に消去できなかったり、時が経つごとに記憶を薄ら薄らに取り戻し、全ての記憶が戻ってしまう事例も決して少なくはないらしい。それほどまでに刀剣の審神者に対する憎しみや、また離れたくない、忘れたくないと言った慕う思い。それぞれあるらしい。