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「異世界って…貴方は何を言っているんですか?」

まさかここが先ほどいた世界ではなく、別世界へ飛ばされたとでも言うのか。確かにあの風が吹いてからいきなりこの場所に変化したのはわかる、あんな一瞬で知らない場所へ行けるはずもなく、こんな何もない場所、どこを探したって日本にはないだろう。


私の問いににっこりと笑みを保ちつつ、お仕事ですよ?と言った。

なるほど、これが入社式か。とても壮大だ。



そして冒頭に戻るわけだが。


「異世界と言っても私達が住む現代の修復、修正を行うために設けられた世界と言っても過言ではありません。ここで仕事をしてもらう事を説明しますね」


過去へ攻撃する歴史修復主義者を阻止、そして修復するとしてこの世界で行っているらしい。世界と言っても過去へと移動するための空間。

審神者という者が神刀を扱い、邪気を沈める者として務める。この世界にはそういう審神者が存在し、刀剣という過去に偉人に使われたとされる刀たち。所謂神様だ。拠点、本丸にて生活し、その刀たちと共に過去へ行き、攻撃する者を討伐するというお仕事。政府によって生み出されたものであるという。故に現代でこの仕事を知るものは少ない。

うん、でも待って。私普通の会社員の予定だったよね?会社で書類やら商売やらする営業マンになる予定だったよね?


「審神者は望んでなれる者ではありません。政府が審査をし、適正だった者を送り出します。貴方様は選ばれたんですよ」
よかったじゃないですかとにっこり笑う運営さんに目は笑わず微笑みながら言った。



「解雇しろ、今すぐにだ」

「それは無理です」

「何故?」

そんな悪を成敗しろみたいな漫画のような仕事はやらんぞ。私が普通がいいのだ、普通に仕事して家でゆったりと過ごしたい。

聞くに死ぬ可能性があるじゃないか、そんな死ぬリスクを背負ってまでやる仕事なんてやりたくない。たとえそれで大勢の人が助かるとしてもだ。「皆を救えるなら、私は命を差し出します」なんていう正義感の強い聖人と一緒にしないでもらいたい。


「審神者はやだなー。だってその刀剣とやらと役目終えるまで一緒に居なきゃいけないんでしょ?」

「しかし審神者以外の仕事など無いんですよ。だから言ってるんです」

「んー…じゃあ審神者で審神者じゃないような仕事」

自分でも何言ってんだって思ったけど。

運営さんはものすごく困ったような顔をして悩んでいた。うん、そんな顔にさせてごめんね。でも嫌だったら解雇すれば良い話じゃないか、こんな近所のババアみたいに細かく細かくねちねち言われるくらいだったらさ。

もしかしたら帰れるんじゃね?と内心笑みを浮かべていたら、少し経って運営さんはふと思い出したように顔を上げ、ありました。と言った。くそ、帰れると思った矢先にこれだよ。



「実は審神者の方にも問題がありまして、ブラック本丸という審神者が仕事を放棄し、刀剣たちを乱暴に扱ったりして崩壊した拠点があるのです」

何その、現代でいうブラック企業のような禍々しい場所は。私はそんな危険地帯で一体何をやらされるんだ?殺されるのか?

「刀剣たちは、審神者が居なければ滅びてしまいます。二ヶ月と持たないでしょう。新しい審神者の元へと渡るためにその本丸を修正しなければなりません」

それは運営側で対処していたらしいが、人が足りないらしい。運営にもやらなければいけないことが山ほどあるわけで、見捨てられた本丸の修復など手が回らず、過去には全ての刀剣たちが滅びて本丸は崩れてしまったという件も少なくはないという。


「貴方にはそのブラック本丸の修復をお願いしたい」

「……内容によるかも…。もし殺されるってなったら…」

「政府からの情報では、貴方は何故か修復能力が他の人間よりも異常に高いと記されています」

それに、まんまと殺されるほど貴方は弱くないでしょう。と私を見据えた。

運営さんや政府は私を買いかぶり過ぎではないのか。そしてどうしてわかる。修復能力なんてまず聞いたことはない。確かに私自身が傷を負った時、治るのが異常に早いって言うのはあるけど、その刀剣とやらを治す能力なんて知るはずがない。どっからの情報だよそれ。


内容としては、ブラック本丸の修復、刀剣たちの手入れ。次の審神者が使用できる状態に修復させるというもの。刀剣たちには接触しなければならないが、特別として自分は刀剣を持たなくていい、つまり1人生活が出来るということ。簡単にいえば掃除屋のようなものだ。

ほう…これは美味しいかもしれない。死ぬリスクが極めて高いらしいが、その分給料もかなり上がる。

うん…普通に審神者になったほうが平和にのんびり過ごせるんじゃないかと思ったが、素敵な場所で1人で過ごせるという点にものすごく魅力を感じる。これは惹かれてしまう。



「…うん…やりましょう」

条件を飲んだ。私も随分と落ちた人間になったなとしみじみ感じたわけだが、わかってほしい。1人の時間が無ければ死ぬ人間も中には存在するということをな。


とりあえずマイホーム建築にはしばらく時間が掛かるらしいので運営本部に寝泊まりさせて貰った。ありがたい。






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