05
大広間で昼食だというのを燭台切から皆に伝えてもらい、一部は来ていないものの、ほとんどの刀剣たちが大広間へと集ってくれた。ちなみにその一部は大倶利伽羅だったりだとか同田貫が含まれていたのだが、大倶利伽羅については仲がいいらしい鶴丸と燭台切で無理やり連れてこられていた。
そんな無理やり食べてくれなくても全然構わないのだが…大倶利伽羅は無理やり連れてこられたことにかなりお怒りの様子でずっと眉を潜めていた。
ふと私と目が合うと、慣れ合うつもりはないと言われた。あ、はい…そうですかと返したけど相変わらず不機嫌そうな顔だった。
同田貫と言えば、こちらも御手杵や日本号といった槍面子に抱えられて大広間へと来ていた。他の刀剣たちはそっとしておくという事をしないのか、強引に連れてくるしか方法がないらしい。
「いいかざじゃ!こりゃあーおんしが作ったがか?」
土佐弁で繰り出すのは陸奥守。目をキラキラとさせてこちらを見てきた。
「私と燭台切さんとで作りました。彼、とても料理の才能ありますよ。びっくりしました」
「おお、しょうなあ燭台切!おんしがこがなうまそうなもの作ったがか!羨ましいのう」
「やだな、照れるよ。すごいのは掃除屋さんさ」
やだなあ、照れるよ燭台切。そういって表情はピクリとも動いていなかったが、嬉しい。
「見習いさんの歓迎会と、貴方たちが初めて食事するってことの祝いですね。初めて食事するってので、やっぱり日本食が一番だと思ったので祝いにしてはかなり素朴な感じになってしまいましたが…」
申し訳ありません、見習いさんと頭を下げれば、見習いさんは目ぱちくりしてすぐに首を大袈裟に横に振った。
「とんでもありませんわ!皆さんが初めて食事をする記念の日に私まで歓迎会を開いてくださるなんて光栄の至りです。ご丁寧にどうもありがとうございます」
そう言って微笑んでは優雅に頭を下げた。雅だ…なんて美しいんだ。
周りもさぞ見習いさんの美しさに目を奪われていたことだろう。わかるとも。だって私なんて一日中見習いさんの姿を見ていても飽きないくらいに、正直言ってストライク。まるで絵画から出てきたような出で立ちなのだ、見習いさんは。
しかし、審神者たちの会話の中には可愛い女の子って乗っ取りで悪評らしい。乗っ取りも何も私は彼女にそのまま明け渡すつもりでいるのだから別にどうということはないのだが、あんなに絶世の美女で霊力も高いハイスペックな彼女の中身が真っ黒というのは信じがたい。見た目に惑わされてはいけないとは言うが、あんな容姿を持ってて性格がブスだったら勿体なさ過ぎるからやめてくれと言うのが私の本音である。
とりあえずだ、彼女がここに就任するまでに時間はある。どうやって刀剣たちの警戒心を解こうかと首を捻った。
翌日、掃除屋らしく本丸の中を埃一つないようにピッカピカに雑巾で磨いていると、見習いさんが何かお手伝いすることはないかと聞いてきた。
そうだった。本来の審神者の仕事というのは鍛刀したり政府に書類送ったり、手入れしたりするんだった。政府の書類はともかく、まだ手入れしきってない刀剣たちが居るのだ。顔を合わせた刀剣たちはほぼ手入れはしたが、まだ刀の状態で放置してあったり、心を閉ざした刀剣が居るというのを聞いた。
ふむ、と考えていると見習いさんがどうしたのかと顔を覗き込んできた。私はハッとして彼女から離れる。驚いたからではない、目を見られるのが怖かったためだ。私の俊敏な動きに驚きつつ、見習いさんは首を傾げた。
うん、ごめんね。まだ慣れなくてね。
「前髪は目に入らないんですか?ピン止めをお貸ししましょうか?」
「あ、いえ。お構いなく。慣れっこです」
そりゃ両目とも前髪で隠していたら表情が伺えないし、不審に思うだろう。もうちょっと待ってくれ、勘弁して。
見習いさんは何か察したのかそれ以上聞かないでくれたけれど、いつまでもこんな醜態を晒しているわけにはいかないなと彼女には気付かれない程度にため息を吐いた。
その後、見習いさんには短刀たちと遊んでもらう役目を請け負ってもらって、私はまだ手入れをしていない刀剣がどこにいるのか探した。
「心を完全に閉ざしてしまった刀剣がいてな、髭切という刀なんだが」
薬研は深刻そうな顔でその名を口にする。
髭切。確か鍛刀できない刀だ。どうやら一代目の審神者が死んでから顕現していないらしく、離れの一室に刀のまま眠っているという。ここの仲間たちが呼びかけても一向に顕現せず、刀のまま沈黙を貫いている。そのような状態になるまで一体どのような事があったかわからないが、わからないと言って薬研に聞くというのも無粋だろう。こういうのは本人の口から聞かなければならない。
「さすがの大将でも髭切の旦那の心を開かせるのはかなり難しいだろうな」
話を聞いているに、難しいというより無理なんじゃないかなと思えてきた。
だからといってそのまま放置するわけにもいかないし、離れの掃除もまだだ。それまで瘴気などは発生していないがこの間見た限り、一代目以降は離れを使っていないのか、かなり埃が溜まっているようだ。埃まみれと聞けばこの掃除屋のお仕事の出番というわけだ。