09
「座ったらどうだ?」
「座っていいんですか?」
「別に構わない」
片目を隠した緑髪の男はお茶を啜りながら夜空を見上げていた。私は距離を開けてその横に座ると同じく夜空を眺める。
現世に居た時の空と同じだ。変わってないものを見ると何故か安らぐ。
「…君はどうしてこの本丸に来たんだ?わざわざこんな汚れた禍々しい祟る場所に来る必要はないだろう」
「はは、随分と卑下するんですね。さあ、何故でしょう。ただ、この本丸を救いたい…とかそんなつまらない理由じゃないですよ」
「つまらない…か、…今までに来た審神者は皆口を揃えて救いたいと言っていたがな」
君はおかしな奴だ。と口角を少し上げ、困ったように言った緑髪の男。
おかしなのは貴方達だと思うんですがね。
罪のない、ただ救いたいと思う審神者たちを容赦なく殺してきた。いくら前の審神者が自分たちに酷いことをしようと、それを他の人間に八つ当たりすることはあってはならないことだ。ただ一心に救いたいと思っても、無駄なことは承知済みだからな。
付喪神とは言えど、神だから人間は格下ってか。付喪神なんて妖怪に近い神を気取ったものたちだ。本当の、例えでいう天照大御神のような大神とは神格が違う。
「私はこの本丸を修復して貴方達を手入れするだけですよ。それ以上の関係なんて求めてません。寧ろ迷惑です。関わってくるな…と言っておきます」
まあ、そんなこと万が一にしてもありませんけどね。と肩を竦めると、ますます不可解だと言わんばかりに緑髪の男は眉を潜めた。
何回同じようなこと言うんだろう。
「ああ、冷えてきた。そろそろ失礼しますね、あまり隙を見せていると…」
隣に距離があったのを一気に縮めて、彼の肩をぽんと叩く。何かに弾かれたように煌めき、一瞬にしてところどころに傷があった緑髪の男の傷は癒えた。
彼は驚いたように片目を丸くして硬直していた。私は彼の肩から手を離してゆっくりと立ち上がる。
「こうやって、気づかぬうちに手入れしちゃいますからね。いいですか?」
若干のどや顔でふふんと微笑む。
手伝い札ってこういう使い方も出来るんだな…。手入れ部屋に連れて行かなくても手入れ出来る方法があるとは思わなかった。
簡単に言えば、手伝い札を応用して彼に霊力を一気に流し込んだ…という感じだ。
それにしても、隙があるようでないような刀だな…。
「君は…人間か?」
ついには人間性を疑われた。悲しい。
人間ですよ。と呆れつつ答え、そのままそそくさと自室へと戻る。
ここもあまり居心地が良いとは言えない場所だ。早くリフォームしたい。匠を呼びたい。
緑髪の兄ちゃんから退散したところで、明日のプランを机に向かいながら考える。
とりあえず彼らが近付くなって言ってるんだからもう近づかなくてもいいんじゃないかな。部屋だけ貸してもらえれば後は無理矢理にでも手入れして掃除して衛生状態を良くしてここからオサラバすれば政府からOKが出るかもしれない。
正直言って彼らを救いたいとか全然思っていないし、何もしてないのに刃物向けられるし、それなのに助けてあげたいとか思えるほど心は広くない。
よし、そうしよう。と独りでに頷いた。