46 葬儀屋
死体を片付けるように依頼を受けていた葬儀屋のスケラス=ゲラシモフは行き先の途中で厄介ごとに巻き込まれていた。
行き先の途中では、何故このタイミングに居るんだと言わんばかりに極道の連中がピリピリとした様子で数人話し合っていたのだ。どうやらこの区域は抗争中らしい。事務所も近い事があって、至る所にヤクザ関係の人間が居た。そのことにスケラスは参っていた。
「……」
無言であちらに気付かれないように隠れつつ様子を伺う。動く気配はなかった。
どうやらまだずっとここに居るらしい。ここだけではなく、別ルートも知っていたスケラスはそちらへと向かおうとするがそちらもピリピリとした様子のヤクザたちが居た。
不幸なことに変装できるようなものは持ち合わせていなかったスケラスは途方に暮れたように立ち尽くす。
何と言っても、彼が普通の道を通れないのは異様な格好にある。
小柄な少年が自分より二倍くらい大きな棺を持って、体中包帯を巻いているだけではなく、顔にガスマスクをつけているのだ。
仮にも棺を投げ捨てたとしてもガスマスクという時点で異様な格好なのだろう。ガスマスクは外せなかった。これを外せばいざとなった時に大変なことになってしまうと本人は自覚していたからである。
「すまない…アルバート。この依頼は出来そうにない」
メールを送ろうとした時、隠れていた脇道から組の男二人が出てきたところに遭遇してしまう。
スケラスとその人間と目が合ってしまい、異様な容姿に怪しまれることは必然的だった。
「おい、お前どこの組のもんだ?」
組なんぞ入っていないただの殺戮街の葬儀屋なんて言えるわけもなく、スケラスは無言で棺を床に落とす。
一般人だとしても、裏の人間だとしてもどちらとも違和感がありすぎる棺の存在を男二人は注視した。
中には一体何が入っているのか、もしかしたらミイラでも入っているのかもしれないと想像する男二人は余計に怪しく思い、スケラスに向かって銃を向ける。
銃を向けられたスケラスは、チャキと向けられた音でちらりと男二人組を見るが、また視線を棺に戻し、中をガサゴソと漁る。緊張するどころか、平然としているスケラスに男二人は動揺するものの、舐められていると受け取ったのか、男一人がスケラスに近付いて棺を蹴り飛ばす。…が、棺は硬いのか重いのか、ガンッと鈍い音が響き渡り、男は足を酷く痛めたのか、苦痛の表情を浮かべた。
棺を蹴り飛ばされたスケラスは、ゆっくりと顔を上げると男二人に読めない表情のまま口を開いた。