30
「度胸あんのかないんか知らんけど、背後を見せるってのは殺してくださいって意味やで?」
そう言って男たちに一瞬で近付いたアルバートは、長い足を思い切り薙ぎ払った。
その衝撃波と打撃で男たちの胴体は消し飛び、血の雨が降り注いだ。アルバートは血塗れになり、とても不快そうな顔をする。
これだけ血を見ると美味しいたこ焼きも全然美味しくなくなる。
というよりもあのアルバートという人は……人間なのか?
とても不可解だ。腕一本で脳みそをぶち撒け、体をバラバラに即死、足払いで多数の人間を一度に胴体を切断し即死…どうみても人間技とは思えない馬鹿力だ。ピサロさんはこれを強いとしか言わなかった。強いのなんの、こんなの生物兵器だろう。彼はどれだけの価値観でアルバートを評価しているのか…わからない。
「は、最悪や。今すぐ帰って風呂入りてえ」
そう言って上着を脱ぎ、タオルで顔を拭き始めるアルバート。
私はとてもあの人に近付くのは嫌だったが、依頼は依頼だと、落ちた白い封筒を拾い上げてアルバートさんへと向かった。彼はタオルで顔を拭きながらこちらを振り向き、無言で私を見た。
地面を歩くとびちゃびちゃと嫌な音が響き、血生臭い。とても長くこの空間には居ることは出来ない。鼻を摘みながら、アルバートさんに封筒を差し出す。
「ピサロさんから頼まれていたものです」
「ああ、おおきに。せやけど、先に風呂入らせてや。ただ渡すだけじゃお前もつまんないやろ?」
いえ…私は…と断ろうとするが、後ろからロゼが私の肩に手を置く。身長が高い彼に私は必然的に見上げるような体制になる。彼はニコリと微笑んで、俺からも話があるので…と言われ、釘を刺されたような気がした。
確か彼は、私が持っている封筒のピサロさんの印に驚いていたな。おそらく、何故キミが持っている?と言いたいのだろう。何となく察しはつく。それに、あのアルバートという人もとても面倒くさそうな性格で、受け取ったらさっさと帰りそうだったが後々に回すということはやはり話があるのだろう。
何故ピサロさんと繋がっているのか…と同時に何故”こちら”に居るのか。と。
とにかく、私も彼らのことをよく知らない。互いに知った上で話し合ったほうが懸命だろう。
「話があると申されても…どうするんですか?」
そう首を傾げる私に、ロゼはうーんと唸りアルバートに視線を向け、どうする?と振った。
「便利屋でええやろ。俺ん家やと狭すぎるし、便利屋には今アイダおるで」
「アイダさん居るのか?何でまた…」
「あーそれは後からでええ。とりあえず、チビついてこい」
「チビ…?!」
それってもしかしなくても私の事だよね。明らかに二人共身長180cmは優に越してるだろうし…。
煙草を取り出して吸いながら歩き始めるアルバートにロゼは私を見て手招きし、微笑んだ。複雑な気持ちになりながらも私は2人に着いていった。
本当はすぐ帰るつもりだったのに…これ今日中に帰れるかな…。
そう心配になりながらも足をぎこちなく進める私にロゼさんが大丈夫?と振り向いて心配な顔つきで尋ねてきたので私は大きく首を縦に振った。
別に急ぎ用でも無いのだから心配する必要もないか…と勝手に自己解決した。