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「あっ、このことは長官には内緒ね」
「いや…長官さんに会う機会なんてないでしょ普通…」
そっか、と笑う彼女。私が親しみのある友人だとしてもその内部情報を一般人に教えるのはどうかと思うけどな。それに、私は殺戮街を知っている。この情報は殺戮街の人達には大きな問題だろう。だからと言って、私はこの事を広めるつもりはない。もちろんピサロさんにもだ。これ以上、殺戮街に関わらないためにはこの情報はふーんと流してしまうのが一番だろう。
「それにしても犯罪者の街って…そんなの外国だって日本にだって存在するのに…今更何なんだろうねー」
犯罪者の街というのは現に存在する。それは、犯罪者のみの街ではなく、犯罪が多い街としての認識だろう。急にその捜査が入ったということは、犯罪者のみの街である殺戮街を知る人物が警察軍の内部に存在するということだろう。
内側を知ってしまった私は、彼女の言っていることがすんなりと理解出来た。もし殺戮街を知らなかったら、頭は謎だらけだろう。
「なんだろうね…」
友人にも本当の事は言えまい。嘘を吐いてごめんよ潤。
「それってさ…その長官が言い始めた事なの…?」
「うん、多分そうだと思う。秘密裏って言っても本当にこの情報は長官と私と極一部の人間だけだと思うよ。確証が無いから明確に出来ないんだ」
「なるほどね…」
きっと長官が何か殺戮街の事を知っているのだろう。何らかを目撃…、もしくは裏切ったのかもしれない。
「気になることでもあるの?」
「いや、ただ…そんな街があるだなんて言い出したのは誰なのかなって思っただけ」
そう、ただ思っただけ。
そう言う私に潤は、長官の事バカにしてるでしょそれ。と吹き出していた。まあ、確かにバカにしているような言い方だったのは申し訳ない。
他愛もない話を続けていると、あっという間に大阪に着いてしまった。人と話をしているとこんなにも早いものなのかと思いながら、新幹線から降りる。
大阪駅に到着すれば、潤は一歩前に出てこちらを振り返った。
「私はもう行っちゃうけど、大阪気をつけてね神流。何かあったらこれ!これ持ってて!」
そう言って渡されたのは警察軍の通信機だ。これは…普通ならば一般人が持っていていいものではない。内部で伝達をするために使うもの。彼女は一体何をしたいのだろう。
「それで通信オンにして助けを求めれば警察軍本部に全て行き渡るようになってるの」
私が危機に晒された時、このスイッチをオンにして助けを求めれば本部に伝わり、各警察軍基地にも行き届くわけだ。そうすれば、もし自分の家の近くだろうと、東京だろうと、警察軍は動ける体制を作れる…ということか。とてもありがたいが、そんな壮大な事件は起きないだろうと思う。
寧ろ、大事件でも起きない限り連絡してはいけないような威圧感があるのでやめてほしいのだが。
それと、この通信機にはカメラ機能が付いているらしく、この機器で取った写真も全て本部に送られるという。ふざけて飯テロでも送ったら怒られそうだ。使いたくはない。
それに私は殺戮街の奴らの味方でもないし、警察軍の味方でもない。まあ、殺戮街から出たいと思っているので警察軍に味方したいところだが、味方したところで即座に殺戮街の連中に殺されそうだ。いや、違いない。
「ありがとね、潤」
とりあえず、お礼を言っておく。使う機会は来ないだろうとは思うけれど。
どいたまー!と言って彼女は去っていった。とにかく元気のいい先輩だ。あの勢いで転ばなければいいのだが…と思ったと同時に階段からコケていた。言わんこっちゃない。