01 知らない世界

















「ここはどこだろう?」

突然迷い込んだお伽話に出てくるような街中が私の目に映った。

私は夢でも見ているのだろうかと目を擦ったり、頬を抓ったりしてみたけどやっぱり痛いし、これは幻なんかではなかった。
何かイベントでもやってるのかな、と平凡且つ何不自由なく面白いこともつまらないことも並々に経験し、非日常を知らない私は純粋に詮索もせず、辺りを見回した。
私は確か普通に繁華街を歩いていたはずだ。夕方になって日も落ちてきたからそろそろ家に帰ろうとしたら…ああ、多分方向を間違えたんだ。本当は危ないけど裏通りから行った方が近かったからそこを通って、そこで何か道を間違えてしまったんだ。



「そしたらなんでこんなファンタジックな世界が広がってるんだろう」

まるで漫画じゃないか。平凡な主人公がある日突然メルヘンな世界に迷い込んでいたとかものすごくありがちな設定だ。しかしこれは現実だからそんな妄想だって風船のようにすぐパンッと割れてしまう。

今の心境を言おうか、すごく不気味だ。


現在の時間は午後六時を回ったところで、今はもう秋だから日が落ちるのが早くて外はもう真っ暗である。街灯やお店の光で今現在私がいる場所はとっても明るいけど、それが不気味だとか、イベントがこんなところにあるとかそういうのじゃなくて、単純に人が怖いのだ。
確かに夜になれば明るい時とは違い、不良とかヤクザとかそういうのはちらちらと繁華街をほっつき回っていたりするだろう。でもそういうので人が怖いとかじゃなくて…ああ、言葉では言い表わせられない。

でも、ものすごく静か…。私の家はマンションの一人暮らしだからわかる。マンションの一室でテレビも何も付けず、ソファーでボーッとしている時の静けさだ。それにいくらかグサグサと何かが刺さるような居心地が悪い感じ。
人間観察だとか人の心情を読み取ることは得意だから、目立たないようにひっそりと周りの人々を観察する。



「へぶっ!」


なんということだ、転んでしまった。
痛恨のミスだ。こんなときに周りを見ているようで見ていない癖、直らないものだろうか…と冷静に言っているようで、実は内心はものすごく焦っている。
知らない街であまり目立たないように動こうとしたら初っ端からこんなドジを発揮してしまった。
周りの視線はグサグサと私に突き刺さり、私は未だに地面とキスをしている。汚いとか考えてる暇はなかった。とりあえず、この街から出たいと切実に脳内を占拠している。


ようやくもそっと動き出すと、大丈夫〜?と緩い声で私の前でしゃがむ人影が地面に映る。

「あ、…はい…大丈夫で…」
手を差し出してくれたので、私は顔を上げてその人の顔を見たのだが、背筋が凍った。





[back]
2/51