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「凛子様は抜け道をご存知だとご主人様から伺いました。ですので、パスポートは不必要かと」

「ですよねー」

まあ、普通そうか。

朝食を取った後、玄関までご丁寧にメイドさんにご案内された私はメイドさんにお礼を言って、仮面を付けては、外へと飛び出した。
さて、願いとしては死にませんようにとお祈りしておいた方がいいかな?と重い足取りながらも軽い思考で抜け道へと向かった。


内心ではかなりパニック状態になっていたので、抜け道などそんなこと頭から吹っ飛んでいるのではないかと思ったが、案外そんな事はなく、普通に覚えていた。危機的状況でも逃げ道は確保出来るという人間の本能だろうか。

思ったのだが、警察や政府に直接バレていなくとも、人工衛星やヘリコプターでこの場所が見えてしまうのでは…?と思ったのは言うまでもない。
メイドさんが言ったことが嘘か本当かわからないが、この区域が何らかの力で守られている…というのは確かなのだろう。上空から見れば、こんな派手な街一発で不審だと思われるだろう。こんな人気のない場所に遊園地が建てられているとも思うはずがあるまい。



覚えていた道筋を辿って、仮面を取っては殺戮街から出る。
そうすればまるで体に突き刺さっていた鋭い威圧が嘘のようになくなった。憑き物一つ取れたようだった。



ここが殺戮街と表社会の境目…私はそう思った。

これが私が以前住んでいた場所…裏通りだと言うのに空気が気持ちよく感じた。自分でももう自覚はしている。もうこちらにはすんなりと戻れないのだろうな…と。
ピサロさんは私をなるべく殺戮街に干渉させずにこちらの世界に帰そうとしてくれたみたいだけど、バイトを任せる辺り…もうそれは叶わないと思ったのだろうか。
それは私にはわからないことだ。でも、戻れるならばこちらに戻りたいとは思っている。もし私が、殺戮街に入って人を殺そうと仲間入りしたのなら、もう立派な住人だ。しかし、私は今後も人を殺したり、傷つけたりする気はさらさらないのだ。そんな状態であの街に居たって存在自体が邪魔だろう。


裏通りを抜け、人々が行き交う大通りへと踏み入れた。
人の声が聞こえる。笑ったり、子供を引き連れて幸せそうにする家族も居た。その至って普通の日常を見て、自然と笑った。そういえば、本当に笑ったのは久しぶりな気がする。一日殺戮街に居ただけでこんなにも心というのは荒んでしまうのかと思うと、やはりあの街をいち早く出たかった。

ピサロさんとも長く付き合ったらいけないような気がした。何故だかはわからないが。


大通りを歩き、駅へと向かう。
大阪行きは…ああ、やはり3時間は掛かってしまう。

手続きをし、私は新幹線に乗った。ぼんやりと外を眺める。何も考えていないわけではなかったが、これからどうするか頭がいっぱいだった。





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