12 薔薇の視線





案内された場所は実に広く、ボロマンションに住む私とは比較もおこがましい程の豪邸がそびえ立っていた。
まさかとは思っていたけど、相当な金持ちだったとは。ビビって一歩下がってしまったが、さすがにこの大きさに驚かないほど私は冷静じゃないし、今まで殺されるというかなりの重圧感から何故か冷静に対応出来ていたものの、少し安堵すればこのザマである。

そんな私にピサロは笑ったけど、こんな豪邸金持ちだってなかなか持っていない。
彼が言うにはこの家は別荘の一つだと言っていた。ということは他にも別荘を持ち合わせていて、実家もこれよりも何倍もデカイのだろう。想像しただけで足が竦む。

彼の別荘の特徴的部分は庭園にある薔薇だった。
赤い薔薇のみならず、青薔薇や黄薔薇、白薔薇や黒薔薇まであるではないか。その他にも品種改良をしているのか、様々に彩る薔薇たちが庭園に咲き誇っていた。綺麗ではあるけれど、黒薔薇がどうにも目に入る。黒薔薇は憎しみや恨みといった幻想的で綺麗に咲いているものとは思えない意味合いを持つ花だ。見栄え的にはいいんだろうけど、それを誰かにあげるつもりはないだろうな…ないでほしいものだが。
私がずっと黒薔薇に目が行っていたからなのか、ピサロはクスクスと笑いながら気になるゥ?と尋ねてきた。


「いえ…別に…」

「花言葉は恨みや憎しみ…でももう一つ意味があるって知ってたァ?」

…なんだったか…、思い出せない。
首を横に振れば、弧を描いていた唇はより弧を描く。

「”キミはあくまでボクのモノ”。ねえ、ピッタリじゃない?今のキミに」

あくまでモノ扱いか、いつか人間として見てもらいたいものだな。
私は合ってませんよ。と不愉快に口をへの字にさせた。おもちゃというだけでも嫌なのに黒薔薇までプレゼントされるのは御免だ。



「でも…薔薇のいい香りがします」

「いいでしょォ?落ち着くよねェ〜ここの薔薇たちは”血”を飲んでいるから他のより全然綺麗だろう?あひゃひゃ」

「…血…?」

お察ししてしまった私は案外想像力が豊かなのだろう。

つまりは人間の血をこの薔薇たちは栄養分にしているということなのだろうな。想像するだけでも悍ましい。そう思えば、薔薇たちはまるで目があるかのように私達を見て歓迎しているようだ。こんな世界だ、薔薇が喋ったって納得するかもしれない。




[back]
13/51