(静雄×美容師臨也/パラレル)




「絶対こっちの方が女の子ウケ良いよ、シズちゃん顔は良いんだからさぁ。」

行き着けの美容室で毎回向けられるその台詞。
閉店時間間近なせいか俺とソイツしかいない店内。
鏡越しに視線がかち合えば痛みきった髪に櫛を通し器用にハサミを操っていた人物がヘラリと笑った。

「いつも通りで良いっつってんだろ、毎回毎回そればっかじゃねぇか。手前は。」

ただ伸ばしただけの髪を摘む指先は同じ男のものとは思えないくらいに細くて繊細だ。
客に対して敬語を全く使わないコイツの店に来たのは、幽の紹介があってだった。
自分自身で染めていた髪の酷い傷み具合を見かねて、連れて来られたのは幽が普段通っているらしいこじゃれた美容室。
場違いなそこに緊張する俺を気にする様子もなく腕を引きガラスの扉を押す弟の後をギクシャクとした動きで付いて行けば
今現在、俺の担当をしているコイツが胡散臭い笑みを浮かべて俺たちを出迎えた。

「アレ、幽くん。この間来たばっかりじゃなかったっけ?」

「いえ、今日は俺じゃなくて兄貴の方をやってもらいたくて。」

チラリとこちらに向けながら問われた質問に答える弟に笑いかけるとあまり広くはない店内に並べられた椅子へと案内され、カットやらカラーやらをされた。
そこからコイツに髪をいじってもらうようになったのだ。

「折角なら格好良く仕上げたいのが美容師心って言うかさあ、良いじゃん、たまには好きにさせてくれても。」

つまらなさそうに唇を尖らせながら首元に巻いていたケープをカラー用のものへと取り替えていく。
襟に引っかかっていた髪を取るように伸ばされた指先が首筋へと触れると、その冷たさにドキリと心臓が跳ねる。

「良いから、いつもと同じカラーとカットにしろよ。」

跳ねた心臓を誤魔化すように、いつも以上に不機嫌そうにそう告げれば渋々、と言った様子でカラーが始まった。
染髪料独特の匂いやこちらが答えなくともペラペラと話し続ける声、それに鏡に写る華奢なその姿。
いつからか、なんて分からない。いつの間にかこのムカつく言動しかしないコイツに俺は恋心を抱いていた。
そんな所謂恋焦がれている相手から毎回毎回同じ言葉を向けられれば、正直流石の俺でも若干凹んでしまう。
そんな気持ちは微塵も知らないであろうその人物はどこか機嫌良さそうに色の変わり始めている髪に染髪料を塗りたくっている。

「シズちゃん、髪の色元に戻したりはしないの?」

「あー、今更戻すっつってもな。気に入ってるしよ、この色。」

「金髪より茶髪とか黒髪の方がモテそうなのに。」

「そんなに俺をモテ男にさせたいのか、手前は。俺はモテるより好きな奴一人に好かれる方がよっぽど良い。」

ふうん、と曖昧な返事と共に手際良く頭に巻かれるラップ。
ストンと隣の椅子に腰を下ろしこちらを見つめてくる瞳にその意図が分からず眉を顰めていると、段々と顔が近付き訳も分からないまま柔らかなものが唇に触れた。

「俺、君にモテて欲しいけどモテて欲しくないんだよね。」

「…は?」

「自分の気持ち誤魔化すために、いつもあんなこと言ってたとか知らないでしょ。シズちゃんは。」

「え、いや…何の話だ。」

「だから、俺はシズちゃんが好きなんだって。」

世間話をするような、普段と全く変わらない口調で告げられた唐突過ぎる告白に反応出来ず固まっていると
目の前の人物は座っていた椅子から立ち上がり困ったような笑みを浮かべて肩を竦ませる。

「…ごめん、言うつもりはなかったんだよ。あんなことするつもりもなかった。…ただ、何か好きな奴がーとか言うから我慢出来なくなっちゃってさ。」

「…オイ、」

「シズちゃんが格好良くなって、可愛い彼女でも出来れば諦められると思ったんだけど、ごめんね。本当。」

言い訳するような言葉をひたすら並べ距離を空けていく相手の腕を掴み自分の方へと引き寄せる。
簡単に重なった体。シャカ、と嫌なビニール音を立てるケープは無視して自分よりか細い体をそっと抱き締めた。

「ちょ、なに、え?」

「俺も好きだ、毎回毎回あんなこと言われて傷付いてたとか知らねーだろ。手前は。」

先ほど言われたような台詞を返せば唯一視界に入る白かったうなじが見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

「…ごめ、ん…?」

明らかにクエスチョンマークがついた謝罪におかしくなってしまい笑えば、それが気に食わなかったのか何度も背中を手のひらで叩かれる。

「手前、意外と可愛いよな。」

思ったことをそのまま口にすればますます真っ赤に染まっていく白い肌に緩く唇を押し当てた。
ピクリと震えた細い肩に抱き締める力を強めつつもう一度耳元で気持ちを告げれば、俺も。とか細い声が返ってくる。

やっぱり俺はモテるよりか好きな奴に好かれる方が幸せだ。


(美容師に恋。美容師の恋。)


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こうした方が女の子ウケ良いのに、って臨也に言わせたかっただけ。
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