(正臣→(←)臨也。気持ち暗め。)





「臨也さんて、髪すげー綺麗ですよね。」

むかーし昔、何気なく思ってしまった言葉を口にして指先でそっと黒髪を撫でると、目の前の男は擽ったそうに笑った。
今思えば、普段は見せないであろうその表情に一目惚れしたのかもしれない。


「正臣くんは本当に俺の髪が好きだよねえ、ずっと触ってて飽きたりしない?」

広々とした部屋に置かれたソファに腰を下ろし、視線はテレビへと向けたままこちらへと問いかける声はどこかからかうような口振りで
それにムッとしてしまいながらも髪を触る手の動きは止めず動かし続けてしまう。

「俺は臨也さんの髪が、好きなんで。飽きませんよ。」

わざとらしく髪の部分を強調して言えば楽しげな笑みと共にようやくこちらへと向けられた視線。
赤みがかったその瞳は何度見てもドキリとしてしまう。
中身はどうであれ、容姿だけは綺麗なこの男に微笑まれれば大抵の女の子はころっといってしまうんじゃないか。
そんなお綺麗な顔に間近で見つめられて平常心でいられるはずもなく、素直な心臓はバクバクと早鐘を打つ。

「酷いなぁ、俺は正臣くんの髪も目も唇も性格も、ぜーんぶ好きなのに。」

そんなこちらの気持ちを知ってか知らずか、肩を竦ませ浮かべられた笑みはそのままに告げられる言葉の嘘くささにピクリと指先が震える。
どこまでが本当でどこからが嘘なのか分からない言葉にいつもいつもこうして振り回されて
結局、うやむやと言うか、全てを曖昧なものにされてしまう。

「正臣くん、好きだよ。」

こんな風に囁かれる愛の言葉も
寄り添うようにして隣に座っているこの状態も
触れ合う唇の柔らかさも
全てが、曖昧でよく分からないものになってしまうのは俺が悪いのか、それともこの人が悪いのか。
それすらもさっぱり分からなくなってしまった。

「俺は、アンタは嫌いです。髪は滅茶苦茶好きですけど。」

こうやって、本音を隠すのは最後の抵抗で
嫌いって俺が口に出した時、ほんの一瞬だけ浮かべられる悲しそうな表情が見たい
そんな理由で今日も俺はこの人に本当の気持ちとは逆の言葉を向ける。



(本当は)

(全部、大好きです。)


「なんて。」


ポツリ、と呟いた言葉に緩く首を傾けこちらを見つめる相手を抱き締め、気持ちを伝えるように唇を重ねてみた。

こんなことをしたって、伝わるわけがないのに。


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