この間の一件があってから数日、サイケは姿を見せなかった。
嫌われてしまったのか、そんな風に考え始めていた時に降ってきた弾むような声。
「つがるー!」
「サイケ、久しぶりだな。」
文字通り、降ってくるように飛び付いてきた華奢な身体を抱き止めるとそっと柔らかな髪を撫でる。
気持ち良さそうに細められた瞳につられこちらまで頬が緩んでしまった。
「マスターがね、ずっと忙しくて外に出られなかったんだ。つがるに会いたかったのにさ…。」
「そうか、俺も会いたかったぞ?」
サラリ、と口から出た言葉に自分で驚いてしまった。
「いや、その…サイケがいなくて俺も…寂しかった、から。」
ポロポロと零れ落ちる本音に取り繕うこともままならない
そんなあたふたと言葉つむぐ自分の背に回された2本の腕。
ぎゅう、と力を込め、抱き付くと言うよりはしがみついてくるその腕に顔を覗き込めば視界に映るのは恥ずかしそうな、照れたような表情。
「…つがる、サイケすごく嬉しい。」
ポツリ、と呟かれた言葉にこちらからも背中へ腕を回すとばっと顔が上げられる。
「そうだ、忘れてた!今日はね、つがるのマスターの画像をコッソリ持ってきたんだー。」
自慢げに笑いながら差し出された手の平を見つめれば、そこには自分と似た容姿の人物の映像。
サングラスをかけているので分かりつらいが、恐らくに同じ顔だろう。
「シズちゃん、って言うんだって。マスターはいつもそう呼んでる。」
「しず、ちゃん?女の子の呼び名みたいだな。」
首を傾げそう言えば楽しげな笑い声が上がる。
「わざとだよ、マスターはシズちゃんをからかうのにわざとそんな呼び方をしてるんだって。」
口の端を上げ悪戯っ子のように笑う姿に、サイケのマスターの姿が透けて見えた気がした。
「本当は平和島静雄、って名前。性格は短気、マスターに関しては更に短気。」
「職業は借金の取り立て、子供舌で喫煙者。」
「細身で長身、力は…無限?」
次々に告げられていく言葉と先程の映像を重ねようとしてはみるが、バラバラ過ぎて上手く重なってはくれない。
「マスターは情報屋さんだから色んな情報を持ってるんだ、つがるのことも知ってたよ。」
与えられていくデータが上手く処理出来ずフリーズしかけていたところに更に追加される言葉。
「何で俺のことまで知ってるんだ?」
「うーん…それは分かんない。でもつがるのこと知ってたから、だからマスターはサイケをここに連れて来たんだよ。」
にっこりと無邪気な笑みのまま告げられる言葉。
こちらが知らない人物に存在を知られている、と言うのはあまり気持ちが良いものではない。
そんな複雑な気持ちを読み取ったのか、再び力が込められる腕。
「サイケは、つがるに会えて良かったよ?マスターに感謝してる。」
「俺もサイケに出逢えて良かったよ、サイケのマスターに感謝しないとな。」
小さい子供にするように頭を撫でそう言えばぱっと嬉しげな表情浮かべ甘えるように身体を寄せられる。
そんなサイケを甘やかすようにポンポン、と背を叩いていると急に降って来た声。
「…オイ、手前等ちょっと離れろ。」
その声に促され二人で上へと視線を遣れば、どこか苛ついた様子の自分と同じ顔。
「シズちゃんだよ、つがる!」
はしゃぐように呼んだ名前にブチ、と何かが切れるような音。
「その呼び方は止めろって言ってんだろうが!!」
それが何の音かを確認する前に降ってきた罵声にビリビリと身体が震えた気がした。