※突発現パロ





From:コンウェイ
件名:晩ご飯
本文:なにがいい?


買い換えたばかりの携帯を開くと、メールが一通。短い文章に目を通し、メールに返信する。あれが食べたい、必要なものはあるか、食べ物以外にも必要なものはあるか。
一緒に暮らすようになってからほぼ全くといっていいくらいコンウェイとは口をきいていない。理由はわからない。ただ一言メールして、とだけ言われたのだ。世間的に同棲と呼ばれるこれが始まったのはつい最近のことだが、会話がないのはいかんせん寂しい。しかし家の外では普通に話すものだから尚更わけがわからない。そのことを問うてみたこともあるが、はぐらかされてしまった。何か訳があるのだろうとは思っているが、気になるものは気になるのだ。そんな葛藤を抱えつつもこの同棲生活は続いている。

ポケットに入れていた携帯がブルブルと震えてメールを知らせた。必要な食材、石鹸が少ないから買ってきておいて、そして最後には「気をつけて」と。
愛されてはいるのだろうと思う。なんといってもあのコンウェイのことだ、嫌われていたのならそもそも一緒に住ませてなどくれないだろう。一体何が自分と彼を遠ざけているのだろうか。






「なあルカ、どういうことだと思う?」
「ど、どうって言われても…」


放課後ルカを呼び止めて無理矢理座らせ、話を始めた。なんだかんだで同棲生活やらのことのあらましは全て話していた。住むことが決まったときだなんて自慢してしまいたくて思わず連絡までしてしまった始末だ。元々ルカとコンウェイは面識があったからそのことに嫉妬したこともあったが、一緒に暮らし始めてからはさりげない優越感をも感じていた。しかし今ではどうだ、一番近くにいるはずの自分は会話すらしてもらえない。些細な優越感はいつの間にやら劣等感のようなものにすり替わっていた。


「それ、は、僕もコンウェイから…あっいやなんでもな」
「はぁ!?」
「いや、あの、コンウェイが……」
「んで言わねーんだよ!ざけんな!」
「言わないでって言われたから…ごめん……」
「え?」
「スパーダには言わないでって…」


脳内を言葉が巡る。
コンウェイが?ルカに相談?それも、俺には言えなくて?ルカには言える?


「…けんな」
「スパーダ?」
「ふざけんな」


大して中身の入っていない軽い鞄を片手に引っ掛け教室を飛び出す。人も疎らな帰り道を全速力で駆け抜けた。
ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。
俺にはなにも言ってくれないくせに。俺よりルカなのか。ほんとは好きでもなんでもないのか。大体なんだよメールでって、おかしいだろ、言いたいことあるなら直接言えよ。はあはあと肩で息をしながら立ち止まる。マンションの3階、南向きの部屋が俺たちの家だ。今日という日は何が何でも理由を問い質してやる。
取り出した鍵でがちゃりと鍵を開けノブをまわすと同時にどん、と身体に何かがぶつかった。目の前に映ったのは黒くて艶のある癖毛。


「……コンウェイ?」
「心配したのに、今日早く帰ってくるって、朝言ってたのに」

見上げる瞳は潤んでいた。何か悲しいことでもあったのだろうか、いやそれより。
初めて家の中で会話をした。


「お前、喋って」
「だってメールしても返信くれなかったじゃない!」


そうだった。いつもは帰るときにはメールして、帰宅する頃には晩ご飯が出来上がっていて。交わす言葉はなかったけれど美味しいなぁだとか、幸せだなぁだとか。そんなことを思っていたりした。
今日はルカと話していたからつい忘れてしまったのだ。


「わり、ルカと話してて…っつーかお前」
「何?」
「なんで今まで話さなかったんだよ」
「あ…」


途端にコンウェイの声音が弱くなった。少しだけ後ずさって俺の顔から目を背ける。


「ルカには言えんだろ」
「な、んでそれ」
「いいから言えよ」


両手を掴んで逃がさないようにする。今このタイミングで聞かなかったら、多分ずっとこのまま無言の生活が続くだろう。そんなのは御免だ。


「……くて」
「あ?」
「…は、はずかしくて」


一緒に住もうと言われて思わず二つ返事で了承した。そこまでは良かった。だが一緒に過ごすことはそれは自分の悪い面も見えてしまうわけで。それを意識すると緊張して何を言えばいいかわからなくなってしまった。その結果が、顔を見ないで話せるメールだった。

つまりはそういうことらしい。


「…あー、んだよそれ……」
「だって」
「はぁ…てっきり嫌われたとか思ってよ」
「そんなわけないじゃない」


だいすきだよ、と言って彼は微笑んだ。




130316
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