おおっ、ラブレターやらチョコレートやら出てきた。大量に。土方君を放課後呼び出す内容の手紙を彼の下駄箱に投函しようと開けたら同業者が沢山いたらしい。いくら2月14日だからって、今時下駄箱からチョコわんさかなんてベタすぎる。ふた昔前の漫画みたいだ。聖ウァレンティヌスも苦笑いするだろう。

なーんて思っていたら

「何やってんのお前」

後ろから声がかかった。何というか、ロロノア的な声だ。私はものすごい勢いで振り返る。出た。土方君だ。本物だ。相変わらず鋭い目つきしてやがる。でもかっこいい。

「ぶ、ぶえのすでぃあーす」

「?それ俺の下駄箱、」

「うおおおおっふ!」

もう遅いとわかっていながらも私は開けた下駄箱を全力で閉め胴体で隠した。当然土方君は訝るような顔をする。

「…そこどいてくんね?上履きに替えてーんだけど」

「ええとですね!それでしたら土方君の隣の屁怒絽君の上履きで代用するというのは如何でございましょうか!」

「何でだよ!ていうか多分サイズ違ェよ!」

「じゃあ反対隣の長谷川君は如何でしょうか!これで土方君もマヨネーズ大好きな男、略してマダオになれますよ!」

「もう既になっとるわ!…お前、俺の上履きに何かしたのか」

いい加減そこどけ、と土方君が私の肩に手をかけた。

「わ、」

別にそんなグッと押されたわけではないけれど、動揺した私はあっさり下駄箱から剥がされてしまう。


2分前に私がこの下駄箱を開けるのにどれだけ躊躇したのか知らないんだろう、彼は何のためらいもなく開けた。私がさっき見たのと何ら変わらず、可愛らしい手紙やらチョコやらに埋もれて土方君の上履きはほぼ見えない。


「…何だコレ。新手のテロか」

「3Zでまでテロの心配してどうすんの。今日、ば、バレンタインだから、ほら」


風紀委員会副委員長殿は溜息をついた。腹立つほど女の子に人気あるくせに、この手の行事は苦手なんだろうか。甘いものも苦手とか聞いたことあるし。

私はコートのポケットの中に手をつっこんだ。土方君に渡すはずの手紙がまだ入れっぱなしだ。カバンの中には放課後渡そうと思っていたものも入っているし。しかしどうしよう、困った。こうなったら今ここで手紙を手渡しするしかないんだろうけど、そんな素敵な空気じゃない。


土方君はチョコやら手紙やら落とさないように慎重に(この辺、彼は優しい。)上履きを出して履き替えると、私の方に向き直った。そして、

「そっか、わかった。そういうことか」

とアルカイックな笑みを浮かべた。私を見下ろす目が何だかやさしくなった、ような気がする。どきっとする。

これは…もしかして、私の行動の意図を読んでくれたんだろうか。その上で空気読んで手紙を受け取る体勢になってくれたんだろうか。さすが、フォロ方君は違う。

私はごくりと唾を飲み込んで、ポケットの中で手紙を握り締めた。


「あ、うん。…あのねっ、」

「白雪もチョコレートほしいのか」

「そうなの放課後にっ、………は?」


ぐしゃ。ポケットの手紙は手の中で潰れ、意外すぎるセリフに私は素っ頓狂な声を挙げていた。目玉飛び出そうになった。


「お前は甘ェモン好きだって言ってたからなあ、そういえば」

「違っ…いや甘いもの好きなのは事実だけど違、」

「わーったよ。放課後やるから、このチョコ。俺もこんなん食べきれねえからな」

「人の話を聞けェェェ!」


白雪は混乱した。わけもわからず土方君を攻撃した…もとい、ぐしゃっとなった手紙を土方君に投げつけていた。たいした距離じゃない上コントロールがよろしくないので、へろっと宙を舞った手紙は土方君の横隔膜のあたりにスコンとぶつかって落ちる。


「……何だ、これ」

身を屈めて土方君が手紙を拾い、まず封筒を検める。土方君へ、とだけ書いてある。彼は中を開けて黙読した。


「………」

「………」


痛い、無言が痛い。ああもうこっち見んな、顔から火災発生する。心臓飛び出る。というか、バクバクしすぎて何だか耳が痛い。やっとのことで、蚊の鳴くような声で、「ほ、本命だったりとか、したりとか、するんですよ」と私は言葉を搾り出す。

「そ、…そっか」

土方君が気まずそうに目を泳がせている上、登校時間が近くなり昇降口に人が増えてきた。たとえば沖田君とかに見られたらこれは面倒くさいことになるだろう。恋バナの好きな阿音ちゃんあたりもこういうの聞いてきそうだ。さっさと教室に行って平穏な一日を送りたい。

「っということで、続きは放課後で!いや寧ろWebで!」

「おい、ちょっ待て!」

きびすを返して逃げようとしたら、土方君に手首を掴まれた。わあ、少女漫画みたい。なんて思う余裕はない。私は立ち止まり振り返った。土方君に見下ろされて土方君を見上げた。

「あのさ、……どうせなら、今、くんねーかな」

「……………」

どこかのカメラマンみたいに一語一語区切って話す彼は、心なしか声のトーンがいつもより高い。

「…何で」

「いやその、善は急げっていうだろ」

「善、」

「…互いに、よ」


……善。





およそ20秒かけて意味を理解した私は何だかどうしようもなく照れくさくなって、チョコの代わりに用意した、マヨネーズの神様としても縁結びの神様としても名高いクューピー様の携帯ストラップを彼にスパーキング。そして一目散に教室へと走っていった。




昼休みには彼の携帯に早くもクューピー様が鎮座していたことを、私は後に知る。





善は急げ。

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