結論から言えば、魔女と電波との会話はあらぬ誤解を招く。






「白雪よ」

「んー?」

「お前が魔女という噂は本当なのか」

夏休みが開けて一ヶ月半ほど経ったある日の昼休み、桂君が私に聞いてきた。ざわざわうるさい教室の真ん中より少し右後ろの私の席で。真顔で。

「本当」

ストレートティーのペットボトルを机に置いて答える。「フ、やっぱりな」と桂君はなぜか勝ったような顔に。

「ならば俺に魔法とやらを見せてほしいのだが」

真顔はキープしながらも実にわくわくした様子で桂君が私の机に両手を置き重さをかけて言った。

「却下」

「なぜ」

たまごサンドのビニールを破いて頬張りながら、んー。と適当な声を出す。のんびり噛んでのんびり飲み込んでのんびり紅茶を飲んで口の中をすっきりさせてから私は立ち上がり、桂君の耳の前で手招き。彼は私に耳を貸す。

小声で、耳打ち。

「実はね、魔法王国の法律で、普通の人間に魔法をみせたらいけないって決まってるの」

「マジでか」

「マジ、マジ。懲役300年または10億ペリー以下の罰金なんだってさ」

「むう、ならば仕方あるまい」

桂君の長髪が揺れて、私は再び着席した。

「……白雪」

「んー?」

「どーっしてもダメか」

「うん。どーっしてもダメ」

「ミセスドーナッツ割引券でどうだ」

「割引券と10億ペリーの価値を比較してみようかお兄さん」

「………ぬう…」

「………何、何でそこまでして魔法が見たいの」

私は溜息をついた。そしたら桂君はしゃがみこんで目の高さを私に合わせて、

「興味津々だからだ」

と言う。やっぱり真顔で。

「あー、不思議系好きだもんね桂君。獄寺君くらい不思議系好きだもんね」

でも別に魔法なんか見たっていいことないよ。そんな風に続けたら、桂君は「いや、」と手を振って否定した。

「俺が今興味津々なのは、不思議系ではなく、お前が魔法を使うところなんだが」

「何が違うの」

「ざっくり言えば、お前に興味がある」

「………は、い?」

…誤解されそーな文句に、私の頭を衝撃波が走った。表情ひとつ変えずにこんなセリフをさらっと言える桂君は、魔女の私よりずっとずっとすごい人だと思う。

「だから白雪が魔法を使うというのなら、一度それを見ておきたい」

「………」

「そしてそれを激写して携帯の待ち受けに」

「やめんかァァァァ!」

さりげなく出された彼の携帯電話をべしっと手で払ってから、あ、エリザベスそっくりの携帯ストラップつけてら。と気づいた。

落ちた携帯を拾って開いた桂君は、

「わかった。ではここはアドレス交換という形で丸くおさめようではないか」

しれっと言った。

「何がどう丸くおさまるんだかわかりません。ま、アド交換は別にいいけど」

そう言って私も携帯を出し、交換を行った。

「案外かわいげのないアドレスだな」

「うるさいな、桂君のアドレス意味不明」

「ん?これは暗号になっていてな、三文字目を一文字目に…」

「いやいいッス聞きたくない」

こんな下らない会話をしているうちに新着メール。桂君からだった。テスト送信かな、と思って開いてみたら、


『白雪の身の安全を考慮し、以降、魔法関係はメールで話そう。』


「………んーと……」

色々、色々ずれてる。彼なりの優しさなんだろうけど、ずれてる。漏れた笑みが乾きすぎていたから紅茶をまた一口すすった。桂君はじっと私の目を見て返信ないし返事を待っているようである。


『桂君おもしろいね』


もう何でもいいやとやけっぱちで適当な返信をしたら、彼は衝撃を受けたような顔をして、叫ぶ。

「白雪も俺に興味津々か!」

「え?いやいやいやこれはね、」

「これが…両思いというやつか!」

「何そのハンコックばりのポジティブシンキング!?」

「ハンコックじゃない桂だ!」









再び結論をいえば、魔女と電波の会話は周囲にもあらぬ誤解を招く。桂君の大声のせいで、午後の授業からこっち、私と桂君は付き合いだしたものとしてクラス中に認識された。魔女って噂より面倒くさくて焦った。


そして、結論のその先まで言ってしまおう。桂君がどんな魔法または電波攻撃を使ったのか知らないが、私も段々、内心で桂君に興味を持つようになってしまったのである。おそるべし電波。奴は魔女より強い生き物かもしれない。





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