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愚にもつかない咄。
呟。


 
 こうも暑い日が続くと脳みそが沸いてくる物である。斯くして普段使わない物言いをしてみたくなったり振舞いをしてみたくなったりするのだ。今回も其の一環であれば、きっと恥ずかしく思う時分には記事を消去するのであろう。
 数ヶ月前迄家が在った土地に、今は猫じゃらしやら何やら剣のような草共が青々と背を伸ばして居る。
 其の家は、物心ついた頃から存在していた。しかし最早、私は屋根の色、壁の色さえも思い出せないのである。人の記憶のなんと儚い事か。青かったように、白かったようにも思う。
 けれど今では、建物があった面影は、その空白のような土地ばかり。名も知らぬ草が風に揺れる、ただ其れだけの事だ。
 不意に、私は私が居なくなった時を考えてみる。
 此の世をおさらばした場合ばかりではない。天変地異が有れば連絡手段が途絶える事もなくはないし、身の回りのほんの少しが変わるだけで、今まで当たり前に出来ていた事が出来なくなり、取れていた時間が取れなくなるのは、至極普通の事だ。
 一年先、半年先、一ヶ月先。居たいとは思っていても叶わない可能性は幾らだってある。
 そう想うと。では私は、今、何をしているのか、と考えるのだ。いつか、あの家のように跡形もなくなった時に、私は空白に何を残すのだろうか、と。
 私は家ではないし、人の記憶は土地ではない。整地されている訳でも、境界線を引ける訳でもなく。そしてもっと、混沌としている。
 私はきっと、種子を蒔いているのだろう。其の様に思った。綺麗な花なのかは分からない。食してみたら、苦い物かも知れない。しかし一月後に、思い出して貰えるのなら、其は確かに芽吹いたのだろう。一年後に季節の彩りの中で引き合いに出されるのならば、きっと根付いたのかもしれない。
 種子にも、土地との相性がある。見向きもされない事だってあるだろう。けれど、それはそれで構わないのだ。全ての土地に合う程、私は素直ではないし、強欲でもない。ただ、自分の土地に飛んできた種子は、大事にしたい。芽吹く事がなかったとしても、私の得た経験は、何事も肥やしになり、私をまた、より良い土地にしてくれるのだから。
 
 蝉時雨が鳴き喚く。
 嗚呼。今日もまだまだ暑くなりそうだ。



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