短編 | ナノ





「えっと、お母さん迎えに来たから帰るね」

「あら、そうなの? なら下まで送るわ」

「うん、送るよイヴ」

「ううん、大丈夫。お母さん、この階まできてくれてるから」



気を使って階までしか教えなかったんだろう。
気が利くわねぇ、なんて褒めるギャリーがイヴの頭を撫でる度に、胸が苦しくなる。


(やめてよ、)


「じゃあね、ギャリー、ノエル」

「またね」

「ばいばーい」



私、うまく笑えてたのかな。
イヴが笑って手を振ってくれてたから、多分上手くいったんだと思う。

今日は本当にごめんなさいね、と謝るギャリーに苦笑してダイニングに戻り、一緒に後片付けをしてソファーに座った。



「あれ、高かったんじゃないの?」

「ああ、アタシその店の娘と知り合いだから」



そうなんだ、と笑おうとして出た声が、ずいぶんと素っ気なくなってしまい思わず口を塞ぐ。

ギャリーが驚いたように目を見開きながらこちらを見たが、私はふいっとそらしてしまった。



「なに、どうしたのよノエル」

「別に、何もないよ」

「何もって……」



本当に可愛くない。
ギャリーは心配してそう言ってくれてるのに、なんでこんな態度しかできないんだろ。



「ノエルが何もないのに怒るわけないじゃない。アタシでよければ話を」

「だからっ放っておいて!」



ぱんっ、と乾いた音がなって、部屋に気まずい空気が流れる。



「本当はイヴのほうが大切なくせに」

「は?」

「私なんて、なんとも思ってないくせに!」



気付いたらこんなことを口走ってしまっていた。
肩に置かれた手を叩いて払ったのをきっかけに、私の口が抑えきれなくって、ダメだってわかってるのにギャリーを傷付けるような言葉ばかり言ってしまう。



「そりゃあ私は女の子らしいことできないしっ料理とか、お菓子とか作れない! 全然可愛くなけりゃ、イヴよりギャリーといた時間少ないよっ」

「ちょっと、ノエル。何よいきなり……落ち着きなさいって」

「今日だって心配したのに、イヴと話してて遅れたって……そんなにイヴと話したいならこなけりゃいいじゃん!」

「アタシ、別にそんなつもりじゃ……」

「そんなギャリーに私の気持ちなんてわかるはずないっ裕人さんのほうが……私のことわかってくれた! ギャリーよりも愛してくれた!」

「──!」

「ギャリーも、他の男と変わんないっ口ばっかで、身体だけが目的の最低な人なんでしよ……! 出てってよっ顔も見たくない!」




肩で息をする私の目に、ギャリーの悔しそうに握り締められた手が視界に入る。
泣きそうなのを堪える私は、自分のことばっかりでギャリーの気持ちとか、考える暇もなかった。
現に、私はギャリーが泣きそうな顔をしていたなんて、知らない。

彼は、わかった、と一言だけ呟いて踵を返し、玄関へ歩いていく。



「鍵、閉めたあと郵便受けにいれておく」

「……早く……出てって」



かけられた言葉も無視してただ一言そう言えば、苦笑したギャリーがごめん、と背を向けた。

ガチャ、と施錠された音と、カラン、という郵便受けに金属物が跳ねたような音が私を正気に戻す。
ハッとしてことの重大さに気付き、どうしようと呟いたところで、現状も、言ってしまった事実も変えられない。


(なんて、こと)


その場に膝を抱えてしゃがむ。
あんな、今さら裕人さんの名前を出して、なんてことを、彼に言ってしまったんだろう。
やってしまった、と後悔しても遅い。


(なんで、私は)


物を作るのは苦手なくせに、どうしてこんなものだけは上手に、取り返しのつかないくらい上手く作り上げれるのだろうか。






(本当、上手くいかないわ)

(ホントに上手くいかない)


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追記


タイトル名(お題)は反転コンタクト様よりお借りしました。
この場をかりてお礼申し上げます。ありがとうございました。