僕らのヒーロー | ナノ





ハンター試験に合格すると決めたあの日、あたしはとりあえずライデンと外に行き、銀行でお金をおろしてもらった。
カード6枚のうち、3枚が一千万Jを越えていて下ろすのに結構な時間がかかったが、おかげでたくさん買い物ができたからいいとしよう。
余ったお金はライデンが新しい口座を開設してくれたので、そこへ入金しておいた。(ライデンはハンターライセンス保持者らしい)
あたしはそこから1978年の3月28日までに、体力をつけることと、情報収集だけを徹底的に行った。

体力はひたすら走って走りまくり、たまに近場の森で一週間ほどサバイバル。ちょっと外の比較的人通りの多い露店で、あえてわかるように商品を盗んで流星街まで全力疾走してみたり、たまたま見かけたマフィア集団にケンカ吹っ掛けるだけ吹っ掛けて即逃亡し、そこのボスと一対一<サシ>の勝負して(殴っては逃げた)結局お互いの実力を讃えて仲良くなったり……と、今思うと中々にスリリングだな。

上機嫌に鼻歌を歌いながら、あたしはカタカタとキーボードを叩く。
家にいた頃から機械類はいろいろと弄くってたので、パソコン分解・組み立てはお手のもの。今使ってるのは自作のパソコンだ。



「なんかいいことあったのか」

「うん。政府の国民出生記録とか国民リストクラックしたんだけど。どっちのリストもあたしとクロロのデータは消されたみたい。3ヶ月前には死亡扱いになってたけど、流星街に捨てたってのが露見したんじゃない?」

「ごふっ」



ビールを吹き出したライデンに首を斜めに傾ける。今の会話の一連に面白い発言があったのだろうか? いや、あたしが思う範囲ではなかった。真面目な事実しかなかった。



「皆の名前もないよ。あ、もちろんライデンも。印刷しようか?」

「クレア、ルートクラックなんて子どもがすることじゃねーぞ。しかも政府。バカだろクレア。お前マジでバカだろ」

「二回もバカって言ったな、お前の恥態全世界にばらまくぞ」

「っませっしたあぁぁ!」



素晴らしいジャンピング土下座をしてくれたので今回ばかりは許してやろう。
あたしは足がつかないよう念入りに痕跡を消して、別のフォルダを開く。
一対一で仲良くなったマフィアの敵対関係にあるトグラフファミリーの上層部に食い込む奴の情報だ。
ソイツがバカらしいので、彼のパソコンにボット攻撃を仕掛けておいた。
出会い系のスパムメールにまんまと引っ掛かる時点でアホの子だとわかるが、それで調子で大丈夫なのか? どうなってんだよトグラフファミリー。

メールアドレスや電話番号を引き抜き、コイツが管理していたオークションの物品取引履歴、銃器のリストをコピーし改竄する。
仲間のところからも色々と頂戴して任務完了。

ザルなセキュリティは破ったまま放置でいいだろう。お巡りさんこっちです。



「あ゙ー……何か疲れた。ライデン、デザートあるか?」

「お、プリンあるぞ」

「二個?」

「おう」

「ならクロロも一個。ライデン、取って」

「あいよ」



冷蔵庫へ向かうライデンを横目に、あたしは次の作業へと移る。

盗んだデータを開いて、文章に目を通す。
あのボスが欲しがってた情報+αがちゃんと記載されているのを確認して、あたしはケータイを手にした。
今からこの文章全部をあたしのケータイに移すのだが、これが何より面倒なのだ。
パソコンから直にメールする方法はある。だが、もしもデータを抜いた中にウイルスが混じっていたら、大惨事だ。
あたしが作った防衛システムがウイルスの侵入を許すとは思えないが、この世に完璧という言葉はあっても、100%という数字はない。

つまり何が言いたいのかというと、この目の前のパソコンは既にウイルスに感染していると考えなければならないということだ。
このパソコンに入っていた個人情報等はウイルス(自作)に喰わせて破壊、書き換えをしておいた。

そんな状態のやつと手を繋いだりするわけにもいかないので全部ケータイに打ち込むしか方法はない。
だから一番面倒なのだ。


(まあ、それは1ヶ月前の話なんだけど)


極力面倒なことはしたくないあたしが考えたのは、文章の写真を携帯で撮ると、その携帯に文字化できるアプリケーション。
まあ色々と条件はあるが、これなら文字だけを判別して文字コード化するので、ウイルスを引き連れてくる心配がいらない。尚且つ手早く、簡単だ。
開発までが面倒だったが、特許を取れるくらいの自信はある。

こうして全ての文を移し終えたあとは、用済みのパソコンを破壊する(ウボォーギン担当)。
まあ、すぐに破壊しなきゃヤバイだろうから、あたしやライデンが壊す時もあるけど。



「ライデン、爆破してくる!」

「おいおい、プリンはどうすんだあ?」

「黙ってあたしについてこい!」



ライデンの呆れた顔が視界に入るが、あたしは気にしない。
まさか、こんなに早く小型爆弾の威力がお目にかかれるなんて思ってもいなかった。ウボォーギンがいなくてよかったなあ。

適当な場所であたしはノートパソコンを開いて、その上に爆弾をセットする。
遠隔操作なのでとりあえず五メートルぐらい離れ、ライデンがプリンを持ってくるのを待つ。



「遅いぞ」

「いや、お前。こんなおじさんにプリンもって走らせるとかねえよ。拷問かってんだバカヤロー」



肩で息をする仕草を見せるライデンを無視してリモコンのボタンを押す。
わくわくしながら爆破の瞬間を待つが、十秒、二十秒と何も起こらない。
ライデンに渡されたプリンを頬張りながら、駄作かと気を落とすあたしの頭をライデンは無言で撫でる。
別に気落ちしてるんじゃなくって、回路を頭の中で弄ってるだけなんですけど。



「今回はたまたま運がなかっただけだろ、んな気落ちすんじゃ」



カッと閃光が辺りに広がって真っ白になる。数秒遅れて地響きのような爆音が耳を劈き、地面が揺れ、あたしは小さく悲鳴をあげた。
耳がおかしくなるほどの爆音の余韻に頭が揺らされ、砂煙に涙目になって咳き込む。
真っ白な視界は薄茶に染め上げられ、近くのゴミとライデンしか見えない。



「げほっおえ、っ、クレア……説明しろ!」

「あ、あたしは知らん。芸術は爆発だ」

「真面目に答えろ」



徐々に晴れていく砂煙。
あたしはとりあえず新鮮な空気を吸えることの素晴らしさに感動した。

あたしとライデンは爆撃地点へと向かう。お互い沈黙を守り、心なしか繋いだ手が汗ばんでいる。
だって平地が下り坂になってるんだもの。

パソコンは見当たらない。ついでに周りのごみ山も見当たらない。あるのは黒焦げた何かの破片と煤と土である。
ギギギ、とブリキ音が聞こえてきそうなほど固い動きであたしをみたライデンに、あたしも真っ先に最悪な考えが頭を過る。



「こんなかに、人……いなかったよな」

「い、いないよ多分。仮に人がいたとして、飛び散った肉片は焼き肉状態だろうな」

「焼き肉状態とか止めろ。そして爆破する前に周りを確認しろ」

「心が浮き足立っていた。すまん」



飛び散った残骸(欠片)に骨などがないことを数時間かけて確認したあたしとライデンは、ほっと胸を撫で下ろした。

この年で前科一犯とか笑えない。
そう口にすると、ライデンに頭を叩かれる。
いつもより強めだったので、素直に痛いと言えば、「もうキャッシュカードとか服とか盗んでるだろーがクラッキング女」とごもっともな台詞を返されたので、あたしはもう押し黙るしかない。
だって窃盗とかのジャンルで数えたら七つのジャンルあったよ。
窃盗、脅迫、放火、不法侵入(クラッキング)、傷害、書類偽装、器物破損……やばい、これからどうしよう。

ライデンが地獄へ落ちろとかバカなことを口にしたので、プリンをのせてあった皿を後頭部にフルスイングしておいた。