▽眼鏡水沢視点
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休んだ分のノートを写させて下さい。
と、自分から言ったのに
いざ作業の大量さを目の当たりにしたら、
ガックリと肩が落ちた。
「やっぱりこれ写さなきゃだめですか?」
こんなにノートが溜まる程、
仕事をさせられていたのかと思うと、
労働基準法違反では?
と、泣きたくなった。
もういっそ
ノートの事も試験の事もどうでもいいか、
とも思うのだが。
これは、しがない学生の本分ですかね…。

お茶を運んできた冴子が
ちょこんと隣に座り、
真剣に取り組む姿を眺めている。
あの集中出来ないんですけど…。

忍はまたいつもの"壁ぬけ"
とやらでどこか部屋を抜け出てしまっているのか、
はたまた眠りについているのか。
奥の部屋は物音せず、
とても静かだ。
シャーペンの音と時計の針の音だけが耳に残る。

ノートに字を走らせる。

「今日はメガネどうしたの?」
目は机に向けたままで、
「なんとなく。」と答えた。
理由はあるけど教えるには
余りにくだらなすぎるから教えません。
絶対に笑われる。

やはり視線に集中出来ず、
冴子を見やるように顔を上げたが、
何にもなかったように
ぷいっと知らん顔をされた。

お嬢さん…。
別にわたくしに付き合って
一緒に座ってなくてもいいのに。
てっきり、すぐに忍のとこに行ってしまうかと思っていた。
隣で髪の毛を指にくるくる巻きつけて何をやってるんでしょうか。
よっぽど暇を持て余してるようです。

いただいたお茶をズズズと飲み込み、
視線を戻す。
もう一踏ん張りしますかね。
うしっ!と気合いを入れると。
やはり感じるのは、視線。
「ん?なに。」
てっきりまた、ぷいっと
顔を背けて髪の先を見ていたと思っていた冴子と目があった。
「なんでもない!」
が、やっぱり顔をまたそむけられてしまった。
全くもってわからない。

ー…。
おずおずと
教科書で顔を隠すように目から上だけ出してこっそり見やると。
やはり視線がぶつかった。

その眼差しで見られるのは辛いんですが。
何か言いたい事があるなら、
勿体ぶらず早く言ってください。
先程からただ見てるだけで、
手伝ってくれたりはしないのでしょうかね。

いつまでも同じ行動の押し問答状態に
いたたまれなくなり口を開く。
「なにか御用事でしょうか。」
そう聞いて、
教科書をテーブルに置こうと手を下ろしたら。

ちゅっと音がした。


軽く啄むようなやわらかい感触に、
その場にびっくりしてソファからずり落ちる。
ガタンと教科書が床に落ちた。
目の前には真っ赤な顔。
…不意打ちは反則。

赤く染まる顔につられ、
こちらまで赤くなってしまった。

「…忍さまにお茶いれてくる。」
そう言って、
立ち上がろうとした冴子の腕を掴み
「ちょっと待ちんしゃい。」と止めると、
とても困った顔をされた。

ーその顔で行くのはまずいでしょ。

2011/01/19

 

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