これも職業病というものか。
 アラームを用意しなくても、朝の六時には自然と目が覚める。
 夜更かし朝寝坊が珍しくなかった高校時代の自分が見たら目を丸くするだろう。
 永井はあくびを噛み殺し、隣で眠る沖田の眠りを妨げないよう、そろそろと身を起こした。沖田の起床は七時、これも目覚まし要らずである。
 彼が起きる前に軽いロードワークでもしようと、ベッドから抜け出しかけた永井を、永井自身の身体が裏切った。
 腰に力が入らず、前のめった体はくたくたとだらしなく倒れこんでしまう。上半身をうつ伏せた態勢で、脳裏に甦るのは、昨夜の沖田の所業だ。
 永井が泣きをいれるまでさんざん焦らして翻弄して、それはもう好き放題に喘がされた。
『おきたさん、もぉ、やです、むり、だからぁ』
『うん? 何が無理なの』
『っひ、そこ、そこやだ、ぁああ、うぁ、あ』
『やだって感じじゃないなぁ。まだ頑張れるだろ? なぁ、永井』
 ……悪そうに笑った顔に思い切りときめいてしまったとか、汗が伝う鎖骨が目の毒だったとか、飛びそうな意識の中でもしっかり捉えていたそれらを、克明に覚えていたりする。
 そう、最終的には永井が上に乗って沖田のアレをくわえこんで自分で腰を使ってたなんてことも、その際に、沖田に問われるまま、いろいろととんでもないことを口走っていたことも、非常に残念ながら残念なことにはっきり記憶している。
――― うおおぉ……! なにやってんだ俺!!
 理性が吹っ飛んでいる間のことは綺麗に忘却しているべきではないのか。人間の脳は不親切だ。
 あまりの気恥ずかしさに内心で絶叫しながら拳を固める。
 もう、どこまでもめりこんでしまいたかった。さらに、視界の端に映る青が追い打ちをかける。
 正体は、昨夜、腰の下に敷いていたバスタオルだ。
『っはは、ぐちゃぐちゃだ。いっぱいイッたもんな、永井』
 ベッドの脇に放りながら爽やかに言われた時は何を言いかえす気力もなかったが、誰がそこまでヤったんだと、一発殴っても許された気がする。
――― 沖田さんのばか!
 今なら恥ずか死ねる!
 永井が静かに悶絶していると、ベッドが軋んだ。
 伏せた態勢からそろそろと首だけ向けると、寝返りを打った沖田の眠そうな目と視線が交わった。
 任務中にはまず見られない、気だるい様子をちょっと可愛いと思ってしまうあたりが我ながらどうしようもない。
「永井、何やってんの」
「……柔軟体操……です」
 羞恥心に襲われてましたと白状する代わり、無理のあるでまかせを口にすると、沖田は声を出さずに笑い、隣にできたシーツの余白をぽんぽんと掌で叩いた。
 大人しく、沖田と向き合うように寝転がりなおすと、頭をくしゃくしゃと撫でられる。
「休みなんだし、もうちょっとゆっくりしとけ、な?」
「……了」
「よし」
 沖田は、永井の事情などとっくにお見通しなんじゃないかと疑いたくなる笑顔で頷き、剥き出しの肩を包むように抱きよせてきた。逆らわずにすり寄って、密着した肌はさらりと乾いている。
「沖田さん」
「うん?」
 沖田の声音と眼差しからこぼれ落ちてくる優しさが、永井の胸を詰まらせた。
「俺が朝メシ作りますから、寝坊していいですか」
 くすぐったいような幸福感をまだ味わっていたくて、問いかける。
 沖田はきっと、永井の望むこたえをくれるのだ。

(2012/07/23)




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