07 


ただいまーと部屋にはいる。部屋は寝室とリビングしかないので、とりあえず荷物は寝室に置く事にした。初めての知らない世界での外出は疲れたのか、ローはソファに沈んでいる。
「ロー、お疲れ様。」
「……ああ。」
ローに一声掛け、男性は夕食の準備に取り掛かる。今日の夕食は手羽元が安かったので、ポン酢煮を作る。CMで見て作ってみたいなと思ったものだ。あとは、小松菜のお浸し、茄子と油揚げのお味噌汁だ。思いっきり日本食だけど、ローって箸使えんのかな?駄目だったらフォークでも出そう。そう考えながら調理をすすめる男性の手はスムーズだ。一方のローはと言えば、余程疲れたのか男性がつけてテレビを見ながら、怠そうにソファに凭れていた。


「はい、お待たせしました。」
男性はダイニングテーブルに料理を置き、ソファに座っていたローを呼ぶ。ローは気怠げに返事をして着席した。
「ローって箸使える?使えなかったら、フォークとか持ってくるけど。」
「いや、問題ねぇ。使える。」
向こうの世界でも箸文化はあったようだ。安心してローを見遣ると、とても綺麗な箸使いをしている。そういえば医者の家の生まれだったと思い出し、しっかりと躾をされていたんだろうという考えに至る。テレビの方に目線を移すと、どうやらニュース番組が入っていたようで、丁度昨夜のブラッドムーンの話しをしていた。
「……ブラッドムーン。」
そう呟くと、訝しげにローが見てきた。
「ちょうどローが来た夜、ブラッドムーンだったんだよね。」
月が血塗られたらみたいに真っ赤なの。そう言うとローの目が僅かに見開かれた。
「俺がいた世界でも月が赤かった……。」
そう、その時の様子はよく覚えている。ベポがはしゃいでいて、ローの腕を引っ張り甲板まで連れていかれた。そこには他のクルー達も居り、気味悪がっている者、興奮している者など反応は様々だった。ローはその怪しい光が何か良くないことを引き起こすような嫌な気がしていた。
「……もしかして、原因ってそれ……?」
「単純に考えたら、そうなるかもな。」
だが、確かブラッドムーンは何十年に数回あるかの珍しい天体現象だ。そう頻繁にあるものでは無い。だとしたらローが帰れるのは何時になるのだと不安に思っていると、テレビから女子アナウンサーの明るい声がけ聞こえてきた。
『昨夜、ブラッドムーンを見ることが出来なかった皆さんに朗報です!何十年に数回あるかと言われていた、あのブラッドムーンがなんと!2週間後に見ることが出来るらしいのです!』
何十年後が2週間後……。なんと都合の良いことだろうか。まさか陳腐な小説でもあるまいし。まあ、ローが帰ることが出来るなら早いに越したことは無いだろう。
「え、と、じゃああと2週間宜しくお願いします?」
「帰る方法は分からねぇけどな。」
「寝れば帰るんじゃない?」

まあ、こうして、俺とローの期間限定同居生活が始まった。




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