「うわ...グラディオ、これ....痛くなかった?」
長い間袖付きの服を着ていた理由が分かった。
黒いタンクトップから逞しく伸びる腕から背中全体へ、大きな鷲のタトゥーが入っていた。
これだけ大きく入れるとなると一回で入れられるものではなく何度かに分け、さらに個人差はあるが暫くは腫れる者もいる。
「ん?あぁ、全然痛くなかったかって言ったら嘘になるが...俺の誇りだ。」
「へぇ...」
まじまじと見つめnameは、すっと人差し指で今にも動き出しそうな鷲の翼をなぞった。
ふいにグラディオの大きな手が指を捉えた。
体格差があるから当たり前だが、すっぽりと手が収められる。
「name....こういう事はむやみに男にするもんじゃねぇぞ」
困ったように笑いながらグラディオが言う。
「え?どうして」
何も知らない純粋な子供のような聞き返しに、グラディオは呆気にとられた。
自分より年下とはいえ、こんなにも無防備だとこの先が心配になってくる。
「どうしてって...そりゃあ勘違いする奴も出てくるぞ」
やたらと男の素肌に触れると誘っていると思われる、と言う意味を込めたが果たしてどこまで読み取れているか分からない。
実際、自分が一晩だけの関係で終わらせる女性の殆どがそうやって自分に触れる...触れるとは言っても大方が両腕を絡ませ胸を押し付けてくるような触れあい方だが。
nameのように静かに指先でなぞるように触れてきた者は居ない。
だからこそ、と思い注意喚起したが―。
「そう思われたくてやってるって言ったら?」
「は...?」
予想もしなかった答えに思わず気の抜けたような声が出た。
「そうなるように、触れてみたの」
掴んでいた手はするりと抜けてグラディオの二の腕に触れ
見上げている色素の薄い瞳は、陽の光に照らされて甘い色味を帯びている。
「...じゃあ罠にかかってみるか」
一瞬で自分を落としたこの罠からは
多分抜け出すことはできない。
小粋なワナを仕掛けて