すごく暑い日だった。
いつものようにマンションに行くと、綺麗に片付いた部屋。
イグニスが来て帰った後なのだとわかった。
「イグニス、帰ったんだね」
「...あぁ、警護の仕事が夜入ってるんだと」
ノクトは鞄をいつものようにソファへと置いてクーラーの電源を入れる。
いつもと違うのは、プロンプトも居ないこの空間二人きりという事。
「それにしても、暑いね」
夏服のボタンを二つほどあけて、ぱたぱたと服で仰ぐ。
クーラーが涼しさを感じさせるまで時差がある。
「飲み物、ここ置いとく」
「うん」
ソファへと並んで座り、冷えたグラスの中のアイスティーを半分ほど一気に飲んだ。
茶葉の香りがするのはきっと帰ってきたときの時間を予測してイグニスが入れたんだろうなと過る。
―このままここに居たら引き返せないことになる。
そう思い、立ち上がろうとしたのとほぼ同時だった。
「ノクト、今日はやっぱり帰...」
柔らかくソファに押されそのまま埋まるように体が倒れた。
真っ直ぐに見つめるノクトの瞳は深い海のような色をしている。
「だめだよ、ノクト」
そっと胸に両手をあて、押しのけようとするが片手を取られた。
いつの間に、こんなに成長して男らしい身体つきになっていたんだろう。
「こういうの...したいなら、イグニスに言って専門の人とか呼んで..」
「悪ぃ、name...」
それ以上の会話はなかった。
荒く息をしているノクトの体温が手に残っている。
もっと抵抗したら何も起こらずに終わっていたかもしれないのに
そうしなかったのは私も心のどこかでこうなることを期待していたから。
きっと誰にも知られることがない
夏の日の一ページ。
悪意なき悪事