雨の日をあなたと | ナノ




大粒の雨が降る中
気に入ってるペストリーにケーキを買いに行った。

雨が降っているからきっと人がそんなに居ないだろうと思った予想通り
建物の中はひっそりとしていて、店員の声が静かに響いた。

秋から冬にかけては栗やチョコレートのスイーツが並べられる。
ショーケースにはブラウンがメインとなったカラーのケーキが並び夏に比べると落ち着いているが
金箔や飴細工、食用花が乗せられてそれがまたワンポイントとなって美しい。

少し苦味があるコーヒーの粉を買った。
それに合うものはどれが良いだろうかと、ケースを覗き込んでいると
親切に一つ一つ店員が説明をしてくれた。

久しぶりに来た事もあって、欲張って4つも買ってしまった。

早い時間に家を出ていく音を聞きながら
二度寝をしてゆっくりと起きた朝。
少し遅めの朝食兼昼食を食べたから、まだそんなに空腹にはなっていない。

王都城付近を歩き、ガラス越しに映る自分の姿を見た。

傘に雨が当たる音
車が水を切って行く音
水の中を靴が入っては出て行く音

ぼんやりとしていたらコツコツと革靴の音が近づいて止まった。

顔を上げてガラスを見ると肩越しに驚いた顔をした彼がいる。

『イグニス』

『どうしたんだ、こんな所で…』

背が高い彼はロングコートがとても似合う。
自分が持っていた傘を畳み、足早にこちらの傘へと入って来て持ってくれた。

空いている片手で身体を抱き寄せてくれたので
子供のようにしがみついて彼の中へとおさまる。

『何かあったのか?』

心配そうな声で聞くイグニスの顔を見ると
眉が下がっていた。

『ううん、ケーキ買いに行ってたの』

袋を見せると安堵したようにそうか、と笑って
もう一度抱きしめられた。
彼の鼻が自分の頭の上にあるのを感じる。

冬物のコートの厚みを感じながら両手を彼の身体に巻き付けると、柔らかいカシミヤの肌触りが頬に伝わり
この時期に香る冬の匂いと安心する彼の匂いが
去年一緒に見たイルミネーションを思い出させた。

香りはいつもその時へと自分を運んでくれる。

『一緒に帰ろう。王都城内で少し待っててくれるか』

『いいの?仕事まだ終わってないでしょ?』

『残りは明日でも大丈夫だ。帰ったら温かいコーヒーを入れよう』

そう言って、軽く曲げた腕に自分の腕を絡めて歩き出す。


話しながらイグニスの顔を見上げると反対側の肩に落ちた雨粒がライトに照らされてキラキラと輝いた。

今年のイルミネーションはどこへ見に行こうか。



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