「あーあー...勿体ない事するなよ、と」
ロックが解除される電子音が聞こえ扉が開き現れた赤毛の男は、独特な喋り方で溜息交じりに言葉を漏らした。
広い部屋に用意された豪華な食事は一切手を付ける気にもなれず、持ち込まれてから数時間が経ち完全に冷めてしまった。
大きな出窓に座り、ひんやりとしたガラスに身体を持たれ掛け
しとしとと降り続く雨がミッドガルのプレート上層部の街並みを濡らしていくのをずっと見ている。
全体的に灰色をした眼下に広がるこの都市は、自分が今押し込まれているこの部屋と同じだと感じた。
「なーにが気に入らないんだよ、と。こんなケータリング滅多に食べれないだろ」
テーブルに並べてあった色鮮やかなオードブルの一つをつまみ、『うん、うまい』と言いながら近くのソファへと足を組み寝そべった男は、名前をレノと言った。
「いつまでここに居なきゃならないの?」
「ん?あー、まぁ...保護の解除が出るまでだな」
答えになってない、と小さな溜息をつきながら再び外を見やると
さっきより少しだけ雨足が弱まっている気がした。
「なぁ、頼むからちょっとでも食べてくれよ、と。」
そう言ってソファから立ち上がるとカチャリと何かを手に取る音が聞こえた。
近くにあった椅子を向い合せになるように出窓の前に置いて座ると、持っている器からスープを一口分乗せて差し出した。
ちらりとスプーンに目をやりすぐに視線を逸らし、尚も食べる事を拒否しているとレノは宥める口調で言った。
「あのなぁ、別に変なモン入ってるわけじゃあるまいし...このまま食べなかったら太っとい管腕に通されてそれこそ変な薬流し込まれんだぞ、と」
この神羅という組織ならやりかねないと思い、ふうと息を吐いてから体を起こしてレノに向き合った。
再びスプーンで一口掬い口元に運ばれてきたスープを素直に啜った。
出来立てから時間は経ってしまったものの、窓辺に居て少し冷えていた身体にじんわりと温かさが広がる。
「本当は、」
小さく言いかけたその声を聞き逃さないようにと、レノは一旦動作を止めた。
「肉とか魚より...フルーツを食べてたの...いつも」
そう控えめに告げるとレノはフッと吹き出し笑った。
「なるほどな、かしこまりましたお姫サマ、と」
今日のところは用意されている食事の中での食べれる物で勘弁して欲しいと言うので、先ほどのスープを全て飲み干した。
「腹ごしらえもした事だし...雨が止んだら少し外にでも出るか?」
窓に目を向けながらレノが言った。
「...いいの?」
「ま、主任の許可が必要だけど俺が居るから平気だろ。お姫サマご所望のフルーツを探しに行かないとだからな〜」
そう言いながら椅子から立ち上がり伸びをするレノ。
雲間から陽の光が差し込むのが見える。
雨が止むまできっとあと少し。