あなたといっしょに | ナノ



昨日買ったバゲットを軽く焼いて

バターは小皿に切り分けて置いて
ルッコラとプチトマトと角切りにしたチーズに
オリーブオイルと塩胡椒を少し。
青々しい香りのオイルはサラダにも合いそうだと思って買った。

小さな雑貨屋で見つけたルバーブのジャム。
クリームチーズ…パン好きな彼のためにと、気がつくと冷蔵庫の中にはパンに合いそうなジャムの小瓶が並ぶ。

料理や食べ歩くのが好きだけど『絶対にここ』というこだわりがあるわけではなく

美味しそうなパン屋さんがあったよ、と伝えると休みの日には一緒に行ってくれる。

身支度をしている彼の元へと行き
ドアから、襟を立ててネクタイを結ぼうとしている鏡越しの姿を見つめた。

「どうしました?」

鏡の中で目が合って、私の方へと振り向く。

「ネクタイ結んでみたい」

そう言って彼の元へ行き、首へとネクタイを掛けた。
出窓に腰をかけて目線が同じくらいになる。

「こう?」

確認しながら巻いていると、彼の手が私の手の上に被さった。
クスクスと笑うと「ちゃんと見てますか?」と言われた。

幼い頃、祖母がいつも祖父のネクタイを結んでいたのを思い出した。

きゅっと形を整えて上に上げる。

「出来た!…でも七海さんのいつもみたいに綺麗にいかなかったね、ごめん」

「練習してください、これから」

そう言って、両腕を私の腰へと巻きつけ引き寄せた。
薄らと口元に笑みが浮かんでいる。

朝の陽の光に当たって彼の髪が輝いて見えた。
まだ何もつけていない髪の毛に指を通し梳くと、サラサラと指の間を絹の糸が通るような感覚がする。

「いいね、綺麗な髪。お母様も同じ?」

彼はデンマークとのクォーターで髪の色も瞳の色も薄く、ガラスのようだ。
母親譲りだと前に話してくれた。

「母の方がはっきりとした金色です。瞳の色は青みが強い」

「そうなんだね」

目を開いた彼の瞳は青緑のような色で
前に何かの本で見た花緑青という色を思い出した。

両手で彼の顔を包み見つめると、照れ臭さが湧いてどちらともなくフフッと笑いが漏れた。

そのまま彼の頭を抱きしめた。

回された腕が少し強く締め付ける。

「そういえば、いつになったら名前で呼んでくれるんですか」

「なんだか恥ずかしいし…七海さんで慣れちゃってるし」

「貴女もいずれ同じ苗字になるでしょう」

「じゃあ、これから練習します」

そう言って笑った。

「ご飯冷めちゃうから食べよう」

立ち上がった彼は深く息を吐いた。

「今日はなるべく早く帰れると良いんですが」

「お仕事だからね」

「労働はクソですね本当…」


紳士な見た目からは到底想像できない言葉を突然言うから吹き出してしまう。


明日はもう少し上手くネクタイが結べるように。



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