「あ…ミカル!?」
セブンスヘブンへ行くと、テラスの席から大きな声で名前を呼び手を振る女性が居た。
「ジェシー…!」
メカニックが得意な彼女はまた何かを制作していたようで、テラスのテーブルの上には金属の塊や工具が散乱している。
ここ数ヶ月、顔を合わせていなかったが元気そうな姿があり安心した。
ミカルが階段の下まで行くより先に、ジェシーは勢いよく駆け下り抱き締めてきた。
「ミカルー!久しぶり」
「うん」
ジェシーはいつもこうやってスキンシップを取ってきて、ミカルは照れ臭くもあったが嬉しい気持ちの方が強かった。
「お、ミカルじゃねぇか!」
「久しぶりッスね!」
ジェシーの声につられて中からビックスとウェッジも出てきた。
ミカルは3人がセブンスヘブンにとってどう言った役割で居るのか不思議ではあったが、バレット共に何か他の活動もしている事は薄らと分かっていた。
「ユアン…叔母さんの事、残念だったね。少しは落ち着いた?」
ミカルから身体を離すとジェシーは眉を下げて尋ねてきた。
ゴールドソーサーで女優として活躍していた彼女は、それに相応しく目鼻立ちが整った綺麗な顔立ちだといつも思う。
そして人の心に寄り添う温かさを持った女性だ。
「俺らにも良くしてくれたよな、いつも…何か姉貴って感じでさ。スラムだプレートだとか関係なく接してくれる人だったな」
「頼りになる、カッコいい人だったッス…」
「うん…時々思い出すし、まだ少し時間はかかるかもしれないけれど」
ミカルは満面とは言えない笑顔で答えた。
「寂しくなったらいつでもここに来いよ!俺らがいるし」
「そうっス!うちの猫ちゃん達にも会いに来たらいいっスよ!」
「泣きたい時は思い切り泣く!私の胸を貸してあげるからさ」
「みんな、ありがとう」
ミカルがそう言うとビックスはくしゃくしゃと頭を撫でた。
「ちょっと!レディに軽々しくそういうことしないでよね!イケメンなら許すけど…って、ミカル!新しいメンバーには会った?」
やれやれ、といった顔のビックスを横目にジェシーは興奮気味に話す。
「ティファの幼馴染らしいんだけど、これがまた顔が良いなんのって!経歴も良いんだけどさ、名前…なんだっけ忘れちゃった」
クラウドのことなのはすぐに分かった。
「ティファたちは…今日は出かけてる?」
「あ、そうそう。バレット、ティファ、新人の3人はちょっと今出てるんだよね」
「ま、今度来た時には俺とそいつのどっちかイケメンか判定してくれよな」
「判定する必要もないっスよね!」
「どういう意味だよ!」
ビックスとウェッジのやり取りに思わず笑ってしまった。
「あ、そうだミカル…今度の週末ってどこか出かける?」
「週末はー…特になかったかな、どうして?」
本当は神羅カンパニー本社でのピアノ演奏があったが、話さないでおくことにした。
ジェシー、ビックス、ウェッジの3人は顔を見合わせ安堵したように見えた。
「いーや。物騒な事も多いから、夜遅くなる前に帰るようにな!」
「女の子の一人歩きは危険ッスからね!」
「…うん?大丈夫だよ、慣れてるし」
「あ、そうだ!マリンにもしばらく会って無いんじゃない?向こうにいるから行ってきなよ」
ジェシーが指さす方を見ると、小さな友達達とマリンが何やら輪になって話をしているのが見えた。
「うん、行ってくる。これ、みんなで食べてね」
「おお!嬉しい差し入れッス!」
「ありがとな!」
手を振って3人と別れた。
「なぁ、次のミッション…壱番魔晄炉はミカルの住んでる家やマーケットは離れてるよな?」
「確かプレート上だけど…中心地からは離れた場所に住んでたはず。ユアンが、なるべく静かな場所が良いって言ってたから」
「なら、大丈夫ッスね…」
ジェシー、ビックス、ウェッジはミカルの後ろ姿を見送った。
◆
「マリン」
輪に向かって声を掛けるとマリンは飛び上がって笑顔を見せた。
「ミカル!」
こちらに向かって走って抱きついてくる姿が、つい先程ジェシーがしていたそれと重なって笑ってしまう。
「ミカル、寂しくない?大丈夫?」
大きな瞳が覗き込む。
頭を撫でたらサラサラとした髪が指を抜けていった。
「大丈夫だよ、こうやってマリンや皆んなにも会えるから」
「…うん!今ね、列車墓場の話をしてたんだよ」
「列車墓場…あぁ!」
使用されなくなった列車が所狭しと放置されていて、迷路のようになっている場所だった。
叔母からは老朽化している場所に行くのは危ないからという理由で禁止されてたが、こっそりと友達と行った。
後に行ったことが発覚してお説教をされたが、ラディが庇ってくれたのも良い思い出だ。
「幽霊が出るんだって、ミカルは見たことある?」
小さな友達の1人が聞いてきた。
「幽霊かぁ…そういえば…居たかも!」
大袈裟にそう言うと子供たちはキャーと声を上げて、その姿が無邪気で微笑ましい。
「攫われちゃうから二度と戻って来られないんだよ、どうして平気だったの?」
良い子は連れて行かれないよ、と言おうとしたがその良い子≠フ基準は人それぞれだ。
「こうやって、手を握ってたら大丈夫。離しちゃダメだよ」
そう言いながらマリンの手を握るとほかの小さな友達達も手を繋いだ。
「わかった!」
ミカルは笑って頷くと、ポケットのタブレットが震えてるのに気づき電話に出た。
「もしもし、ラディさん?」
マリンたちは列車墓場について今度はお化けはどこに隠れているかを話し出した。