抱きしめた温もり


「―――!!」

叫んだ、ような気がした。だけどそれは声にはならず、ひゅうっと吸い込んだ空気にのまれた。起きようにも体は金縛りにあったかのように固まり、ぶわっと汗が噴き出す。
「…はっ、はっ、」
薄く開いた口は塞がらない。頭がガンガンと悲鳴をあげ、喉が渇きを訴える。ごくりと生唾を飲むと、すぐ近くで何かがもぞりと動いた。
「ピカピ?」
覗きこんできた影。長い耳。ピカチュウ。オレの相棒。
心配そうにオレの名前を呼んだピカチュウは、ふとオレの目尻を舐めた。どうやら涙が出ていたらしい。
「……、…ん…大丈夫……」
起き上がり、リュックから取り出した水筒を煽る。冷たい水が喉を通り、やっと少し落ち着いた。
それから周りを見ると、仲間たちは眠ったまま。ただ一人気付いてくれたピカチュウの頭を撫でて、笑いかける。
「起こしてごめんな。ありがとう。もう大丈夫だ」

―――なんて、嘘をつく。本当は全然大丈夫じゃない。心臓はバクバクとうるさいし、今の声も震えてたはず。大丈夫、なんてただの強がり。

ああ、だけど長い付き合いのこいつにはお見通し。心配そうな顔、オレの言葉なんか全然信じてなさそうだ。
「ピカピッ」
ピカチュウはオレの胸に飛び込んできた。抱きしめると、小さな手がTシャツを掴む。
「……ありがとう」
囁くと、少しくぐもった声でピカチュ、と返ってきた。


一人でいるのは平気だ。でも、独りにされるのは嫌だ。普段は考えもしないことをふと思うと、今いる仲間たちともいずれ別れて独りになってしまうんじゃないかと、怖くなる。オレのこんな姿を知ってるのはピカチュウだけだ。そしてその度、小さな体をいっぱいに使って教えてくれる。

そばにいるから。独りにしないから。
―――独りにさせないから。


言葉はわからなくても、思いを伝えることはできる。抱きしめた温もりはいつだって、温かい思いをくれるから。

「ありがとう、ピカチュウ。……もう、大丈夫」
ピカチュウは顔を上げた。丸い目がじいっと、オレの様子を確かめるように見つめてくる。
さっきと同じ言い方だけど、でも、今のは本当のオレの言葉。独りじゃないんだって、わかったから。
「………ピカチュ!」
ピカチュウは満足そうに、にっこり笑ってくれた。そんな優しい相棒に、囁くように伝える。

「―――ありがとう」




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