羽触れ合うも他生の縁


エンジュに(そび)える厳かな造りの五層の塔。紅葉が美しい鈴音の小路を抜けた先にあるそれは、鈴の塔と呼ばれ、エンジュの街の象徴となっている。その頂上に座するのは、七色の羽を持つ聖鳥・ホウオウと、銀色の翼を持つ霊鳥・ルギア。
ホウオウが口を開く。
『久しいな、ルギア。長らく姿を見ていなかったが…』
『暫く、西の海の水底にて、息を潜めていた故。まさか、こうして貴殿に再び(まみ)えることができるとは思わなかった』
ルギアが目を閉じ、感慨深げに言った。この二匹で、この街を眺めるまで、決して短いとは言えない年月が流れてしまった。原因は、この街に起こった大昔の大火。
この地には、元々、二つの塔があった。一つは、現在二匹が止まっている鈴の塔。そしてもう一つが、街の西にあった塔。鈴の塔と対を成すそれは、大変美しいものであったが、昔起こった大火のせいで焼け落ちてしまった。結果、ルギアは羽を休める止まり木を失い、静かにこの地を去った。以来、エンジュの都に、この二匹が揃って留まることはなかった。…今日までは。
『これも縁というものなのだろうか…まさか、兄の主人であるコトネ殿と、我が主のヒビキ殿が、同郷の旧友だとは』
感嘆と共に、ホウオウはそう言葉を零した。
彼を従えたヒビキと、ルギアを従えたコトネは、共にワカバで育った幼馴染み。今でも仲の良い二人は、久しぶりに会おうという話になり、それに付き添う形で、二匹はこの地に降り立った。しかし、それは実は口実で、本当はホウオウとルギアを、このエンジュの地で引き合わせてやりたかったらしい。街に着くなり、ヒビキとコトネは、自由にしていていいと、彼らをボールから放った。伝説と謳われたポケモンが、二匹も街に解き放たれては大混乱に陥りかねないが、今のところ目立った混乱はない。その理由は、二人にあらかじめ頼まれていた舞妓が、住民を指揮したためだ。
『我らを出し抜くなど、あの二人は人間にしては誠に面白い。一緒にいて飽きぬ存在よ』

ホウオウは空を仰ぎ、嬉しそうにそう言った。その言葉に、ルギアもつられて微笑む。

『本当にそうだ。思えば、コトネ殿と出会うまでの私は、人間に見つからぬ様、海底で息を潜めてばかりいた。それが故に、人との関わりというものを知らなかった。だが、コトネ殿と出会えた今は、そうではない。共に行く仲間がいる喜び。それをしみじみと噛み締めているところだよ。彼女と出会い、私は今満ち足りた気分だ。…おそらく、貴殿もそうなのではないか?』
意味深に笑って問うルギア。ホウオウは穏やかな笑みを見せた。答えはもちろん、肯定だった。
『兄の言う通りだ。彼に出会い、私も充実感というものを味わっている。ヒビキ殿は、奇特な人間でな。我を従えておきながら、決して我を僕とは言わぬ。驕りを見せぬ。共に心を通わせた、友と呼ぶ。そのことが、愉快で堪らぬ。…我らには羽がある。だが、そのこと自体に何の意味があろう。我の翼は、独りで旅するためのものではない。共に笑い合う、友を乗せるのための翼だ』
『…貴殿も良き主君を持ったな』
誇らしげに語るホウオウに、ルギアが微笑んだ時、
「「おーい!!」」
下の方から声がした。見れば、ヒビキとコトネが大きく手を振っている。二人の後ろには、どこで出会ったのか、ソウルの姿もある。
『ヒビキ殿が呼んでいる』
『私もだ』
二匹はちらりと互いを見た。そして笑い合う。
『では、またどこかで』
『ああ』
どちらともなく別れを告げ、二匹は同時に羽ばたいた。愛しき主君の下へと。
美しい虹色と銀色の羽が、紅葉と共に、鈴音の小路に舞った。







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