心のぜんぶで想うこと


※死ネタ注意


久しぶり、ラッタ。色々あって来るの遅れてごめんな。今日はお前に話したいことがあって来たんだ。

俺さ、負けちゃったよ。お前と約束した最強のチャンピオンになるって夢、あっという間に消えちまった。ごめんな。強くなって、お前に胸張って最強になったぜって報告したかったのにこんなの情けなさすぎるよな。
しかもじーさんに言われちまったよ。俺には愛情が全く無いんだと。だからみんなを愛してるレッドに負けたんだってさ。
…けどさ、すごく悔しいけど間違ってないんだよ。
俺も、お前が居なくなってから変わったってレッドに言われてやっと気付けたんだけどな。あいつにだけはばれないようにって気を付けてたのに一番ばればれだったよ。

いつだったか約束したよな。一緒に最強になるって。みんなで天辺目指そうぜってさ。お前が居なくなってから、強くならなきゃって必要以上に思うようになってたみたいだ。お前に顔向けできるように、お前が優しくて強かったみたいに、みんなを強くしてやりたかった。…途中で、いや、最初から何もかも見失ってたけどな。みんなには辛い思いさせちまったけど、みんなすごく優しくてさ、俺を励ましてくれたよ。こんな馬鹿な相棒なんかいつでも見捨ててよかったのに。ほんと、お前ら優しいにも程があるぜ。

勘違いしないで欲しいんだけど、ラッタのせいじゃないんだ。
全部俺が悪い。馬鹿でどうしようもなかった俺が、何かせずにはいられなかっただけなんだ。そうでもしないと自分を保っていられなくなりそうで──お前が居なくなった事実に押し潰されそうだった。

でも俺、気付いたよ。
お前、あのチャンピオン戦で一緒に居てくれたよな?レッドと俺のバトル見ててくれたよな。だから、最初の久しぶりってのは言うほど久しぶりじゃないな。せいぜい二日くらいか?…今までずっと一緒だったんだから、十分久しぶりか。
すごく嬉しかった。あぁ、今ラッタやみんなと一緒に頂点でバトルしてるんだって分かったら一気に気が晴れてさ。お前と離れてからずっと忘れてた楽しいバトルができた。負けて悔しかったけど…だけど、もうレッドに負けたことに対して焦りとか嫉妬とか、そんなのわいてこなかった。すっきりしたよ、もう意地張る必要ねーんだって。

それでさ、俺、分かったんだ。ほんとはお前、ずっとそばに居てくれたんだよな?
あの時よりずっと前から俺たちと一緒に居てくれたんだよな。見守っててくれたんだよな。

ごめんな、気付けなくて。こんな駄目な相棒でごめん。
お前はずっとここに居てくれた。心配性のお前が考えることなんかすぐ分かるのに、俺はなにしてたんだろうな。
泣いたって何も変わらないのは分かってるんだ。
俺がお前の優しさに気付けなかったことも、俺がみんなに辛い思いさせたことも、ましてやお前が居なくなってしまったことが変わるわけないんだ。どれだけ変えたくたって、どれだけ泣いたって過去は変わらない。そんなの分かってる。
だけど、今だけはちょっとだけ許してくれ。俺、旅に出てから泣くのまだ二回目だぜ。結構我慢したと思わねぇか?昔は泣き虫グリーンなんて言われてからかわれてたのにさ。これだけ強くなれたのも、絶対お前らのおかげだぜ。


***


小さな嗚咽が少しずつ零れ始めた。
この静かな空間では俺の泣き声はやけに響くように聞こえて、情けなくて余計泣きたくなる。
だけど、優しいラッタに心配をかけると分かっていても、泣かずにはいられなかった。

初めて会った時のこと、一緒にバトルしてちょっとずつ強くなったこと、一緒に飯食ったこと、寄り添って寝たこと、毛繕いしてやったこと。いつもラッタは笑っていた。俺とラッタ、みんなとの思い出はいつだって笑顔ばかりだった。
きっとラッタはずっと俺を心配してくれていた。俺があの時、ラッタとのお別れの寸前にジョーイさんにラッタを助けてくれと泣いて頼んだことも、涙が止まらない情けない顔でいくなとラッタにお願いしたことも、全部知っているんだろう。

「また一緒に冒険しようなんて我儘言わねぇよ。」

だからどうか、何よりも優しい俺の相棒が幸せな世界へ生まれかわれますように。優しい相棒が愛した俺の大切なみんながこれから幸せに歩めますように。そのためなら俺はなんだってしよう。なんなら俺の命を捧げたって構わないんだ。こいつらのためならそんなの惜しくはない。こんな俺を愛してくれたみんなが幸せになれないなんて、そんなこと絶対にあっちゃいけないんだ。
神様なんて信じない癖に、俺な何かにひたすら祈る。

お前が幸せになるようにって今更願うのは虫が良すぎかな。だけど本心なんだぜ、俺はお前がいちばん幸せになれる世界にいってほしい。お前にとっての幸せを想って、心のぜんぶでお前の幸せを願うよ。


なんとか止まった涙をぜんぶ拭って、じゃあなと立ち上がった。こんな俺の頼みでも聞いてくれる神様がひとりはいるかもしれないと信じ、レッドに惨敗した最初で最後の場所である墓標の前から、俺はゆっくり立ち退いた。

そして俺がそこに背中を向けた時、「ちゅう、」と懐かしいような、ずっと身近にあったような、そんな錯覚さえ起こすねずみポケモンの鳴き声が、確かに聞こえた。



End.



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