鳴門 | ナノ
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70.


「ライドウさん。お願いだからあの人に、ゲンマに会わせて!」

ビリビリと空気が震えるほどの気迫に押され気がつけばなまえと共にゲンマの元へと舞い戻っていた。ここだ。ここであいつが死んだのだ。逃げ遅れた一般人を庇い敵の一撃を真正面から受け止めて。胸元から大量の鮮血を撒き散らしながらゆっくりと傾いていくあいつの姿を俺はただ見ていることしか出来なくて。この場所に立っているだけで目蓋の裏に焼きついた当時の惨劇が鮮明に蘇ってくる気がして胃の中のものがせり上がってくるような感覚に襲われた。だから一層そう感じるのだろう。そんな俺とは対照的にここへたどり着いてからと言うものさっきまでのひどく取り乱した様が嘘のようにすっかり落ち着きを取り戻したなまえが異質だと。ゲンマの傍らに両膝をつき首元にそっと触れて冷たい、と呟いたなまえから悲壮感や絶望と言った感情は見受けられず、薄情とまでは言わないがその時に何も感じなかったと言えば嘘になる。

「これまでを後悔しているわけじゃありません……でも、ゲンマが死ぬなんて考えたこともなかった」
「……」
「いつか私のことを忘れてくれる日が来たとしても、こんなことになるなんて想像すらしていなかった」
「こいつがお前を忘れるなんて、それこそあり得ないだろ」

なまえは何も言わなかったが、本当は心のどこかで分かっていたのではないだろうか。

「ライドウさん、もう一つだけお願いがあります」
「……何だ?」
「これからここで起こることも私が関わっていることも全部、何があっても誰にも言わないでください」
「どう言う意味だ?」

なまえがそう言うや否や懐から引き出したクナイで躊躇なく自らの手首を切りつけた瞬間、思わず目を瞠った。

「オ、オイ! 何を……、」
「良いから。黙って見ててください」

鋭い痛みに顔を歪めながらも反射的に止めようとした俺に釘を刺すと、自らの血に塗れた手の平をベストの元の色が分からなくなったゲンマの胸にグッと押し当てた。

「……何をする気だ」
「ゲンマを生き返らせます───血契りの術!」

しばらくするとなまえの手元からジュゥゥゥッと肉の焼けるような音が聞こえてきて赤黒く濁った煙が上がり始める。"ちぎりの術"なんて初めて聞くが、だとしたらそれは人繋ぎとやらの力による術なのだろうか。

「、……うっ、……ぐっ、」
「! 嘘だろ……」

ゲンマは確かに死んでいた。何せ事切れる瞬間を目の当たりにしたのだから。なのに、こんな奇跡があり得て良いのだろうか。

「! う……ッ、ゴホゴホッ……、」
「オ、オイ! なまえ、どうしたんだ? しっかりしろ」
「ハァハァ……───っ、ライドウさん。私を掴んでください」
「掴むって……いきなり何を言い出して、」
「良いから。死にたくなければ早く!」

ゲンマが息を吹き返したと思ったらいきなり咳込み出して。わけも分からず言われるがままに外套の袖を掴むとなまえも俺の腕を掴み返し続いてまだ意識が朦朧としているゲンマに覆い被さるようにしがみついた次の瞬間、凄まじい衝撃が襲いかかり目の前が真っ暗になった。

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