両手いっぱいに抱えたプレゼントをベッドに置き、その隣に腰掛けた。
花束はUTAUのみんなから。ラッピングを解いて花瓶に飾り、添えられたメッセージカードは弟たちや家族からのそれとまとめて、そっと箱にしまう。また一年みんなと過ごした、それを示す宝物として。
緑のリボンをかけた小箱を開けると、繊細な細工の香水瓶。本当は中身も贈りたかったけれど、何がいいかわからなかったから――そう言った少女の顔を思い出して、やっぱりあの娘は優しいんだなと微笑った。
ティーカップとソーサーはお隣の兄妹からだ。名義は二人からだが、実際は私が選んだようなものなんです、妹さんは呆れていたっけ。金色で縁取りされて、白いベースには小さな薔薇の模様。確かに、あのお兄さんの選択とは思えない……なんて言ったらどんな反応をするだろう。話のタネになりそうだと思い、一旦箱に戻す。
黄色い双子からは入浴剤。年長者二人が用意してくれたケーキとワインは、ついさっきにみんなのお腹に収まったばかりで。
「たくさんもらったなぁ……」
綻んだ唇で、ぽつり、呟く。嬉しいのは贈り物だけじゃなくて、その気持ちだ。
と、まだ一つ包みがあることに気付いた。丁寧に開けて、中身を取り出す。
……ボイスレコーダー?
音声データを保存するための小型フォルダ。しかし、録音はマスターがするし、個人的な練習でもインカムがあるから本来自分たちには必要がない。ならば何故?
よく見ると、それには既にデータが入っていた。何だろう……とりあえず再生ボタンを押してみると、数秒間のさぁぁと微かなノイズの後、ああなる程ね、納得して笑みがこぼれた。
『ルカさんへ、お誕生日おめでとうございます!』
喋り出したのはツインテールの歌姫の声。カードとはまた違う祝福に、小さく「ありがとう」と呟く。
三分程のメッセージが終わると、次のトラック、かわいい双子たちに切り替わった。姉のちょっぴりボケた言葉に弟がツッコミを入れるやりとりが微笑ましい。その次は一家の大黒柱たる長女から。また呑もうというお誘いは後日ゆっくり受けさせてもらおう。
そして、最後。
『誕生日おめでとう。それと……ごめん、最後が俺なんかで』
気まずそうに言ったテノールに思わず吹き出す。この人は何でそこで謝るんだろう、そんなのだから双子たちに遊ばれるのに。
くすくす笑っていると、突然ガラスが振動する音。不審に思い振り向いて――そして、溜め息をついた。
「……こんな時間に、そんな所から女性の部屋に来るなんて、どうかと思うわよ?」
それでも窓を開ける私は甘いのかしら、どうしようもない疑問を抱きながらも訪問者を迎え入れる。彼は緑の短髪を掻きながら、いつもみたいに不機嫌そうに、
「こんな時間だからこそ玄関からは無理なんだよ。それに、ついさっきまでルキの誕生日パーティだったんだし」
「なら何で、」
続くはずの言葉は、目の前に突き付けられたそれで封じられた。彼の手に収まっていたのは、
「ピアス……?」
透明な袋にラッピングされた、プルメリアモチーフの小さなアクセサリーだった。戸惑ったルカがそれと少年とを交互に見ると、彼は顔を背けて「取れよ」と言うだけで。つまりこれは、プレゼント? おとなしく受け取れば、
「……誕生日、おめでとう」
どこかバツが悪そうに言って、そのまま背を向けて去ろうとした。
「ミクオ君」
窓によじ登ろうとする少年を呼び留める。彼は一瞬ぴくりと反応したが、動作を停止して、背中を向けたまま、
「何だよ」
「これ、ありがとう」
「ああ……じゃあ」
「待って。……あなたの誕生日は?」
「……ミクと同じだよ。8月31日」
「そう」
なら簡単ね、覚えておくわ。声には出さないで自分に言う。
未遂とは言え不法侵入、何より自分を困惑させたんだ。7ヶ月後、きっちり仕返ししてやろう。ミクオがするりと逃げて行った窓を見つめ、ルカは唇を不敵に吊り上げた。
あなたと私の因果関係
(あなたが私を困らせるなら、
私も相手をしてあげる)