「リツ! 今日はレンきゅんとポッキーキッスできる日よね!?」
「せめてポッキーゲームでしょテイ……」





「リツー!!」
 どたばたどたばた、それは背後から。敢えて振り向かないという選択肢を選ぼうとしたけれど、ギリギリでコマンドを変更した。流石に減速すると思っていたら最後の最後まで全力疾走で接近してきたからだ。
「えいっ!」
「きゃ、……もう、危ないでしょ」
 突進してきた小さな影を危なげなく受け止め、リツは眉間に皺を寄せた。はしゃいでいた彼女、ミコはむぅ、と口を尖らせる。叱られたのが不服らしい。
「だってリツならうけとめてくれるもん」
「受け止めなかったらどうしたの」
「うけとめるもん」
 確かに怪我はさせたくないしさせないけど。どこから来るのかわからない信頼が絶対的な物でないのをどう説明しよう、思考と一緒に視線を彷徨わせていると、目に留まったのは赤い箱。
「ミコ、それ何?」
「これ?」
 本人も忘れていたようで一瞬きょとんとしていたが、「じゃーん!」と声を高らかに、
「ポッキーでーす!」
 顔を(>ワ<)にして右手をつき上げ、知らぬ者がない商品名を口にした。
「…………」
 いや、それはわかるんだけど。
「……どうしたの? もらったの?」
 訊き方がアバウトすぎたなと反省し、リツは沈黙を破る。高々と掲げていた箱を下したミコはうん、と笑い、
「テッドがくれたの。ほんとはテイがもってたみたいだけど、もういいらしいから」
「ああ……」
 阻止されたのか。金髪の少年の幸福を喜ぶべきか、痴女もとい女子大生の悲哀を嘆いてやるべきか。とりあえず真相は教えないでおこう、誰も傷つかないで済む判断を下し、不思議そうに見上げてくるミコの気を逸らすことにする。
「じゃあ、今日のおやつはそれだね。牛乳とってこようか」
「うん! ねーリツ、」
 百点満点の笑顔の返事、釣られて口元を綻ばせつつ
「なぁに?」
「ぽっきーげーむ!」
 
 …………は?

「……が、どうかした?」
 もしかしたらテイあたりが言ったことを覚えていただけかも知れない。あくまで平静を装い、続きを促すが、
「しようね! ぽっきーげーむ!」
 誰だ、吹き込んだの。顔が引きつるのを意識した。


「で、わかってるの? ポッキーゲーム」
「うん!」
 所変わってリビング。二つ並んだマグカップの間に開封後の赤い箱を放り出し、一応確認。
「チョコの方がいいよね?」
 はい、と差し向けられたチョコ菓子を大人しく口に入れる。ミコもクッキー側をぱくり、とくわえた。
「どうぞ」
 いやいやいやいやちょっと待て。
 どうぞ、と言ったきり齧る様子はない上に、わざわざ目まで瞑って楽しそうに待機している。どう見てもキス待ちです本当にありがとうございます。
 気を取り直して、リツは考える。ゲーム、という認識が強いのだろう。尚且つ正しいルールを理解していない。なら、とるべき行動はきっとこれだ。
 ぽき、ぽき、ぽき、少しずつ口に入れていく。15センチから10センチ、10センチから7センチ。互いの距離が3センチまで近づいた時、リツはそれをぽきりと真っ二つに折った。
「折れちゃったから、ボクの負け。ね?」
「リツの、負け?」
「先に折った方の負けなんだよ、教えてもらわなかった?」
 クッキーをくわえたままクエスチョンマークを浮かべるミコに説明する。むしろ誰に教えられたのか訊けばよかった、と気づいたのは言った後。
「じゃあ、ばつゲームだね」
「う……何するの?」
 そういうのは先に設定しておくべきだろうが、ここは要求を受け入れることにする。やったぁ、と言って満面の笑みを咲かせたミコは、ひどくご機嫌に言いきった。
「もっかい、ポッキーゲーム!」





あとあがき:ああもうおまえらそうやってポッキーゲームでポッキーひと箱あけちまえ
2012/11/11

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