※カイメイ
※メイト←カイコ前提です




 粉末のココアに温めたミルクを注ぐ。二人とも猫舌だから温度には注意を払って。マシュマロを浮かべて少し冷めた所を渡すと、青色の目がにこりと微笑んだ。ありがとう、どういたしまして。定型の会話を柔らかい声で交わして、青いショートヘアの彼女はカップに口を付ける。
「――それでね兄さん、めーくんったらひどいのよ!」
 突然押しかけてきた彼女、カイコは向かい側に座るオリジナルに向けて主張する。カイトは苦笑して「ゆっくり話してごらん」と続きを促した。こういう時の彼は少しだけ、そうほんの少し、大人っぽく見えてしまう。兄の顔、と言った所か。口の中にもう一度ココアを流して、カイコは続ける。
「今朝思い切って誘ったの。『一緒に買い物に行かない?』って。今日は予定がないみたいだったし、それに、最近一緒に出掛けることなんてなかったから」
「うん。それで?」
 自分もココアを飲みながら、カイトは相槌を打つ。
「そしたらめーくん、何て言ったと思う?」
 口をへの字に歪めて、童顔に似合わない不機嫌な表情。少し困った表情を浮かべているカイトに代わり、メイコは「なんて言ったの?」と質問を返す。コン、お客さん用のマグカップがテーブルに強く置かれた。
「『はいはい、また今度な』って。人が勇気出して誘ったのに!」
 声真似をした後、彼女はヤケになったようにマグカップの中身を飲み干す。明らかに荒れている様子、いつもと違う調子に戸惑ったメイコはカイトと顔を見合わせた。どうしよう? 視線で訴えると、彼は肩を竦めてみせる。でも、私じゃどうにも出来ないわよ? 同じジェスチャーを返すと、口に浮かべた笑みを更に苦くして、仕方ないなと言わんばかりにカイトは妹分に向き直った。
「だいたいいつも子供扱いされるの! わたしだってお酒飲めるのに!」
「うん、でも今回はめーくんの気持ちも解るかな」
「なんで?」
 じとり、即答のオマケについてきた物騒な視線を、カイトは真正面から受ける。流石に言い方があるでしょ、メイコの心配をよそに、カイトは続ける。
「めーくんにはめーくんなりの予定があったんじゃないかな。急に誘われたら調整も出来ないだろうし」
「でもいつもこんな、」
「いつもアポなしで声かけてたりしない?」
 それまで勢いを保っていたカイコがう、と言葉を詰まらせる。どうやら図星らしい。
「……いつも、なかなか言いだせなくって……」
 口を少し噛んで俯く。メイコはそんなに言いづらい相手だろうかと思うけれど、乙女心というやつなのかなと一人納得した。
「断られちゃう原因はそれじゃないかな? めーくんは嫌とは言ってないんだから、今度はちゃんと余裕を持って誘ってみたら?」
「そう、かな……そうかも、うん」
 顔を上げて、カイコは立ち上がった。

「ごめんね兄さん、めーちゃんも」
「いいの、気にしないで」
 本当に申し訳なさそうに言うカイコを見送りに、カイトとメイコは玄関先まで足を運んだ。
「でも」
「いいのいいの。頭の固いメイトが悪い」
 尚も気にするカイコに笑顔を見せる。けれど彼女はちらりとカイトを見、何も言われないのに少しおどおどしている風だった。
「本当にごめんね……お邪魔しました」
「またいつでも来てねー」
 ひらひらと手を振って、空色のマフラーが曲がり角に消えるのを見送る。と、おもむろにカイトが息を吐き、やれやれ、飽きれたような声を出した。
「全く……人の予定狂わせるのが得意なんだから」
「え?」
 言って、頭を抱える。確かに彼女の来訪は突然だったけど、今日は特別予定もなかった筈では?
「今日はめーことゆっくりしたかったの。なのに台風直撃? やってらんないよ」
 あの子、元はおれなのになんでこうままならないの。そう文句を言う姿は子供っぽくて、先ほどまでの兄の表情はどこかに消えてしまっていた。
「まあ、流石にこっちの予定まで狂ったのには気づいたみたいだったけど。……何笑ってるの?」
「ううん、何でも」
 こういう拗ね方はそっくりかな、なんて考えはそっと胸にしまう。
「ねえカイト」
 声を掛けたのはちょっとした思いつき。何、と顔を上げた恋人に、ちょっとした無茶ぶりをする。
「これからちょっと出かけない? もちろん二人で」
 行く宛ても何も考えないまま口にする。予定を乱されてちょっぴり不機嫌なカイトにはいい迷惑の筈だけど。
「いいよ。どこに行く?」
 無鉄砲な提案は存外あっさりと受け入れられる。妹分だからぞんざいに扱ったのか、それとも自分を特別扱いしてくれているのか。後者だと嬉しいなあなんて思ったのは秘密にしておこう。
「まずランチから行こっか。この間ルカといいお店見つけたの」
「……おれが知らない間にどこいってるの」
 少し口を尖らせて、それでもずっと上機嫌になった顔を見上げる。
「女同士の方が盛り上がる時もあるの。ほら、準備準備!」
「はーい」
 間延びした返事をしながら、一度家の中に戻る。たまにはこういうのもいいかなと思って、メイコはそっと口元に笑みを咲かせた。





あとあがき:某所で書き出してたやつをそういえば再録してなかったのであまり加筆修正もしないまま再録……わあこれ年末のなの!? すぐに仕舞えよ自分!
ネタ自体はもっと前からあっためてたんですが勢いだけで書き出しました。正直何がきっかけで書き出したのか覚えてないです覚えてる内に再録したかっ
初出:2011/12/30
再録:2012/5/19

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