※波音リツ×櫻歌ミコ
※年齢操作です。二人とも20代で新婚さんと言う設定。苦手な方は逃げて超逃げて







「ただいまー」
 決して広くはないマンションの一室のドアを開け、玄関に腰を下ろす。定時より遅く帰る羽目になった彼は溜息を吐き、靴を脱いだ。夕飯はなんだろう、窮屈なネクタイに手を伸ばすと同時、
「おかえりなさーい」
 ぱたぱた、キッチンから足音。たったそれだけで、疲弊していた青年の表情が緩む。
「ご飯ね、一緒に食べようと思ったの。もうすぐできるよ。先にお風呂入る?」
 残業帰りの旦那さんを笑顔で迎えた彼女は少し背伸びをして、彼のネクタイを解く。今日も頑張った、奥さんが最高にかわいい。
「ひゃっ」
 今日のご飯はオムライスだよ、そう言って踵を返したエプロン姿に抱き着く。首元に顔をうずめると、くすぐったそうな、歓声に似た悲鳴。
「どうしたの?」
「疲れました」
「……お仕事お疲れ様です」
「疲れたからご飯よりミコを食べたいです」
「だーめ」
 声はどこまでも穏やかで、まるで子供を宥めるよう。たしなめられた彼はそれでも、腰にまわした腕は解かない。愛しいひとの匂い、それがこんなに落ち着くなんて。
「ほら、ご飯作れないよ?」
「ミコ不足で動けません」
「もー」
 大きな甘えん坊に捕まって、ミコは呆れたような声を上げる。嫌な訳はないのだけれど、このままでは何も出来ない。しょうがないなとリツに向き直り、踵を浮かせて、首に腕を絡めて。それでも開く身長差は彼が身を屈めて埋めた。ほんの数瞬、触れるだけの口づけ。これで離してくれる? 悪戯っぱく笑ってそっと後ろへ下がろうとしたら、腰をがっちりホールドされてしまった。
「な、なに?」
 ほんの僅かだが、リツの表情に鋭さが戻る。怒ってはいないが、どこか真剣な目で見据えられると、何もかもを見透かされたような気分になる。彼女の緊張を知ってか知らずか、彼はぺろりと上唇を舐めて、
「りんご、食べてたでしょ」
 ぎくり、ミコの身体が硬くなる。距離を取ろうとするも、抱かれたままで動ける筈はなく。
「おなか、減っちゃったから……ちょっとだけ……」
「いくつ?」
「は、半分くらい……かな?」
「正直に」
「……一つ全部食べちゃいました」
 顔を背けたまま、彼女は答えた。どうしよう、怒られる?
「……はぁ」
 大袈裟な溜息がミコの髪を撫でる。次いでリツは頭に顎を乗せて、「あのねぇ」と口を開き、
「体に悪い物じゃないけどさ、晩御飯入らなくなるよ?」
「い、いいの! ダイエットなの!」
「充分細いから必要ないです。って言うかこれ以上痩せたら抱き心地悪くなるからだめ」
「う……」
 諭されたミコは喉の奥で呻く。何か妙なことを言われた気がするが、反論出来る立場ではない。
「まったく……そもそもお腹減ったんだったら先に食べちゃえばいいのに。遅くなるって言ったでしょ?」
「だって!」
 と、ミコは急に俯いていた顔を上げ、強い語調で訴える。面食らったリツが目を白黒させていると、彼女はスーツの上から腕を掴んでぽつり、小さな声で落とす。
「……二人で一緒に食べたかったんだもん」
 それから聞こえるか否かの声でぽつり、「勝手に食べてごめんなさい」。いじらしさに、リツの口元に笑みが零れた。
「怒ってないよ」
 よしよしと頭を撫で、頭のてっぺんにキスを一つ。
「本当?」
「本当」
 だから、早くご飯にしよう? おでこをこつんと合わせ、赤い目に笑顔を映してやる。リツの所為だよという非難は軽く流して、手をつないだままダイニングへ。コンソメスープとケチャップの匂いが食欲をそそった。
「卵焼くね。ちょっと冷めちゃったからあっためてくれる? サラダは冷蔵庫の中だよ」
「うん」
 テーブルに並べて置いてある皿の、その片方を手に取る。鮮やかな色のケチャップライスからはもう湯気は出ていないけれど、疲れたリツの胃を刺激するには充分過ぎる出来だった。
(料理、うまくなったよね)
 2、3年前なら彼の方が得意なくらいだったのに。ミコが料理の腕を上げた理由を思い返し、今更ながらほくそ笑む。
「ほら、もう焼いちゃうよ?」
「あ、うん」
 慌てて量が少ない方の皿をレンジに入れる。デザートにミコが欲しいです、なんて言ったらどんな顔をされるだろうと思いながら、スプーンを二つ取り出した。







ケチャップでハートを描いて







あとあがき:いい夫婦の日……でしたね…………。ええい今更遅刻など気にしませんよ(開き直り)
数日、いや数週間前にちょっと餌をまかれたので書き出していたお話をサルベージです。新婚さんいいよ新婚さん。
この二人は年齢いじっても糖度高いですね。書いててちょっと恥ずかしい。
オムライスは単純に自分の好物ってだけなんですが、その、今まさにお腹が空いていまして、
ええとつまり新妻ミコさんが作った愛情たっぷりオムライス食べたいです誰か。


2011/11/23

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