※テッド×テト




 床に転がる空っぽのアルミ缶、鼻につくアルコールの匂い。そして、そんな部屋の中で転がる赤い彼女を見、テッドは顔を引き攣らせた。


「誰だ、飲ませたの……」


 辺りを見渡すも、人は見当たらない。そういえばさっきドタバタいっていた気がしたが……さては逃げたな、馬鹿どもめ。


「てっどー」


 くい、とズボンの裾を引かれ、視線を真下に向ける。ふにゃりと笑みを浮かべ、上機嫌で彼を見上げるテトと目があった。……まずは、酔っ払いの世話が先か。


「誰と飲んでたんだ?」


 半ば呆れながら、酔っ払いの傍に腰を下す。全身でじゃれついてくる彼女を受け止めると、酒の匂いが強くなった。弱いのに飲み過ぎだ、馬鹿。


「みんなとだおー」
「みんなって……具体的には?」
「んー」


 ふにゃふにゃ笑って、テトは「わかんない」と応える。どうやら話を半分も理解出来ていなさそうだ。背中を優しくたたきながら、訊く相手が悪かったな、テッドは自嘲した。


「ねーてっどー」


 犯人捜しは明日か。そう思案していると、耳元に甘い声。とろんとした目で見つめて、一体何を言うかと思いきや、


「――のも?」
「駄目だ」


 そんなことだろうと思ったよ。却下した途端に始まった文句の一斉射撃を身に受けつつ、彼は頭を抱えた。


「つまんないつまんないつーまーんーなーいー!」
「つまんなくて結構!」

 これだから酒は飲むなと言っていたのに。駄々をこねる大きなお子様を横目に、テッドはがくりとうなだれる。兎に角、今はこいつを何とかしないと。


「待ってろ、今水をっ!?」


 立ち上がろうとした瞬間、テトの当身が直撃した。バランスを崩して――言い訳をさせてもらうなら、テトをかばったためなのだが――倒れ込む。視線を上げると、怒ったような、機嫌を損ねた赤い顔。


「どうし、」


 最後まで言うより前に、彼女のそれに唇を塞がれた。程なくして、口内にぱちぱちと弾ける液体が注がれる。――口移しとはまた、面白いことを。顔を顰めながら、与えられた酒を喉に送った。


(こんなになるまで飲みやがって……)


 テッドが飲み込んだことに満足したのか、彼女はほんの一瞬身を離す。が、すぐにぺたりと貼り付いてきた。ちゅ、ちゅ、湿っぽい音を立てながら、唇に吸い付き、舌を這わせる。そこに残った僅かな水分を欲しがるように、何度も、何度も。
 触れてはすぐに離れて。そうして繰り返される行為の中で、甘ったるい熱が絡みつき、溜まっていく。嬉しそうに瞼を閉じているテトの表情も見るに絶えず、テッドは視界を閉ざした。
 漸く解放された頃には、飲まされたものの味は覚えていなかった。


「おいしい?」
「……ああ」


 隠した思いには気づかず、彼女は満足そうに笑って見せる。そして、先ほど彼に与えた、開けたばかりと思われる缶に目を向け、


「おっと」


 そのまま伸ばそうとした腕を捕まえる。不思議そうな顔で振り返った彼女に、口元を釣り上げて見せて。


「――ここまでしといて、それはないだろ?」


 低く落とした声を耳元に吹き込む。一瞬、怯えたような表情が見えたが気にしない。反論は口で塞いだ。


「ん、」


 反射的に逃げようとする彼女の頭を押さえ、深くくちづける。酔いが回っている所為か反応は鈍い。舌先を絡めとると、びくり、体を震わせた。一つ一つのリアクションを楽しみながら弄ぶ。と、不意にテトが腕を首に絡ませた。


(……お誘いどうも)


 了承と受け取って、はずみをつけて世界を反転させる。一度身を起こすと、切なげな吐息。


「は……」


 瞳の緋色が潤んでいるのは、一体何によるものなのか。


「てっど、」


 そんな声で呼ぶなよ。止まらなくなったらどうするつもりだ?


「ここじゃ、や」
「ずいぶん積極的だな」


 からかえば首を振る。けれど、そこに拒絶の色はなく。


「……飲み過ぎた罰だ。たっぷり遊んでやるから覚悟しろよ?」


 そう囁いて、意地の悪い笑みを浮かべれば、テトの顔が真っ赤に染まる。羞恥に耐えかねてそっぽを向く彼女の首に唇を落と――




「げっ……」




 ――そうとしたら。


「……覗きとはいい趣味だな」


 恨めしさを込めて言ってやると、青年は目を逸らしながら「ちげーって!」とテノールを張り上げる。


「様子見に来たんだっつの! の、飲ませたのは俺じゃねえぜ? 一人で置いてきちまったから、それで……」


 言いながら、ルークは今すぐにでも離れられるように距離を置く。居た堪れないならとっとと失せろ、馬鹿犬が。


「明日、」


 ぽつり、こぼすと、横目でこちらをとらえてきた。それを確認し、


「……覚えてろよ?」


 笑ったのは口元だけ。ダークレッドの目をす、と細め、低い声で言ってやれば、不憫な青年は引き攣った顔でそそくさと撤退して行く。その背中を睨み付けるように見送って、溜息を吐いた。そして、自分の下で硬直したテトの髪を撫でて、頬にくちづけを一つ。


「気にするな。行くぞ、ほら」
「どこ、に……?」
「俺の部屋」


 彼女ごと体を起こして、そのまま立ち上がる。片付けなんぞ知らん。そもそも逃げたあいつらが悪い。
 テトの細い手首を握って引っ張り上げたが、その場にへたり込んだまま動く気配はない。彼を見上げる面持ちはぼんやりとしていた。


「どうした?」
「だっこ」
「……はいはい」


 ますます子供みたいだな。ふ、と笑って、華奢な体を抱え上げる。すると彼女は首に腕を回し、テッドの喉元に頬を摺り寄せてきて。本当に別人みたいだな、と思う。良くも悪くも、酒の力は絶大だ。
 今度一杯付き合ってやるか。そう考えながら、彼は部屋を後にした。


理性の箍とアルコール




あとあがき:「てったんがお酒弱い設定ください」猫夜「設定っつーかネタならある。超王道だけど」「王道バッチコーイ」
……と、いういきさつの元書いたので\俺は悪くねえ/……や、やめて石投げないで!
正直、ぼんやりと、ですが、前々からネタ自体はあったので、書く機会与えてくださった某様に感謝です。

初出:2011/05/25


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