※モンクウ
「寒いですねぇ」
「えーと……それでコタツを?」
「はい」
コタツに手も脚も入れて丸くなり、目の前の女性は「それが何か?」と首を傾げてみせた。ここは彼女の仕事場で、天板の上に半透明のモニターが展開しているあたり仕事中らしいが、
「仕事……出来るんスか、それ?」
そもそも手を引っ込めている時点で何も出来ないような。良いのかなぁと思いつつ、モンは黒いハットを頭から下ろす。
「モニターは見れるから大丈夫ですよ。寒くて震えているよりは作業効率はずっと上ですし」
彼の思いとは裏腹に、彼女――クウは、小柄な体を更に小さくしてしゃあしゃあと言ってのける。確かにそれはそうかも知れないが……口を開こうとしたら、彼女が言葉を続けた。
「――それに、今日の仕事は終わってるんですよ。トラブルでも起きなければ、あとは経過をデフォ子さんに報告して終わりです」
「そうなんスか?」
何だ、つまりもう仕事上がりか。オペレーターと言う職業が雑用係と化しているこのパソコンの中、今日は特に帰りが遅いなと思いここまで来たモンの心配は杞憂に終わったらしい。「お疲れ様ッス」靴を脱いでフロアに据えられた畳に上がり、コタツに足を入れ――
「いたっ」
――たら、足を蹴られた。
え、何で、俺なんかした? 顔を上げると、橙の瞳が挑戦的に彼を見据え、
「誰が入っていいといいました?」
……そう来ますか。
「だからって蹴らなくてもいいじゃないスか」
「きゃっ」
言って、伸びて来た足を蹴り返す。勿論、本気は出さない。
「痛いじゃないですかっ」
「いだっ!」
再びげし、と蹴りが入る。向こうは本気だ、けっこう痛い。
「蹴らなくてもいいじゃないスかっ」
ムキになって小突き返す。女性じゃなかったら――いや、彼女じゃなかったらもう少し力を込めていたと思う。
「足が伸ばせないじゃないですかっ」
「外は寒かったんスよっ」
「勝手に来たのはモン君でしょっ」
「俺は心配して来たのにっ!」
「よけいなお世話ですっ!」
些細な言い合いと共に蹴りの応酬が続く。足も言葉も平行線、お互い譲らないままヒートアップし続けたその時、
「もう、……えいっ!」
突然足首を掴まれた。何、何すんの先輩?
「うりゃりゃりゃりゃ!」
「っ、先ぱ、は、」
何の予想も出来ないまま、突然靴下の上から足を思い切りくすぐられた。引っ込めようとするが、肘まで使ってホールドされていて動かせない。足裏をなぞり上げられるわ弱い力でひっかかれるわ、攻撃は容赦なく続く。
「これは私のコタツですっ!」
「ちょ、無理、すいませんごめんなさいっ!」
ばんばんばん、コタツの天板を叩いてギブアップ宣言。ひーひー言う息を整えていたら、クウは紅潮した頬に勝ち誇った表情を浮かべ、ふぅ、と息を吐く。
「コタツの恨みは恐ろしいんですよ、わかりましたか?」
僅かに浮かんだ汗を拭って、彼女が高らかに口にした言葉に、モンは静かに「参りました」と応えてコタツから撤退した。途端にひやりとした空気がまとわりつく。……やっぱり寒い。
「わかれば良いんですよ、わかれ、ば……?」
そしてダメージを受けたその足で、クウの隣に周り込む。不思議そうな視線は気にしない、そのまま腰を下ろして、再びコタツに足を入れた。
「何、を」
「ここなら蹴られずにすみますよね?」
「……!」
それにここなら俺も先輩も足伸ばせるし、一人で入るよりあったかいッスよね? にっこり笑うと、彼女の顔が朱に染まる。
「あれ、先輩顔……」
「……ばかっ!」
「いてっ!」
本気の肘鉄を食らって、彼は笑いながら悲鳴を上げた。
コタツ戦争
(蹴り合いもじゃれあいも、君とならあったかい)