「ちょ、リンちゃん、何?」
何やらテンションを上げたがくぽに「今日は隣家にお邪魔するぞ」と半ば強引に引っ張られ、たどり着いたお隣さん家では先に奥へ行った兄に代わって、黄色い双子にぐいぐい背中を押される始末。質問を繰り返すが、がくぽもリンも、レンでさえもが「いいからいいから」と謎の笑みを浮かべるのみで、グミはすっかり訳がわからない状況に陥っていた。
そうして自宅より幾分か広い家の廊下を押されるがままに進み、やがて扉の前でブレーキがかかった。記憶が確かなら、この先はリビングの筈。リンとレンの「開けてみなよ」コールに従い、恐る恐る引き戸をスライドさせると――
『ハッピーバースデイ!』
クラッカーの紙吹雪を浴びて、思考回路がショートするかと思った。
振り向くと、リンはこれでもかと言う程のどや顔、普段それをツッコむ筈のレンも二、と笑っている。えっと、これは……?
「サプライズパーティーってやつよ」
戸惑う彼女に、メイコがにっこり笑いかける。……パーティー?
「何の……痛っ!!」
『グミちゃーん、まさか自分の誕生日忘れたとかは言わないよね?』
いきなり後頭部をちくちく刺して来たのは矢印アイコン。すなわちマスターだ。声自体は耳元のヘッドセットから直接入ってくるから、声でカーソルの位置を特定するのは難しかったりするんだよなぁ……って、え?
「誕生、日?」
「そうでーす!」
元気よく応えたのはツインテールの歌姫の声。ガラガラ音を立てながら引っ張ってきた台車には、特大サイズの四角い真っ白なケーキが鎮座していた。
「わたしとルカさんが作ったんです!」
飾られたチョコプレートの祝福の言葉を認識し、やっと事態を把握した。
もう一年経ったんだ、……早いなぁ。
電気が消され、祝いの歌が合唱される。ゆらゆら動く蝋燭の火を一気に吹き消して、パーティーは始まった。
「マスター」
『ん……ひょ、待』
パソコンの前で何かを食べているらしいマスターに声をかけたのは、一通りプレゼントを受けとってからだった。
「私、歌いたい」
『え』
プレゼントと一緒にもらった、お祝いの歌を聴いて思ったんだよね。歌ってもらうだけ、なんてつまんない。やっぱり私、歌うのが好きなんだなって。それは勿論歌うために造られたから、なんて理由じゃなくてさ。なんとなく照れくさい言葉をぽつりぽつりと伝えると、マスターは気まずそうに、
『いやでも、ぶっちゃけ今日のためにって思ってた新曲は間に合わなかったんだけど……』
「別に新曲じゃなくていいの。ほらアレ、私が初めて歌った歌!」
『あ、それならすぐ用意出来るかな? しばし待たれよ』
気を利かせた兄が電気を消し、ケーキの蝋燭に火を灯す。キャンドルライトのコンサートか、兄さんにしてはなかなか良い演出だ。これは張り切っていかないと。
程なくしてイントロが流れ、矢印アイコンが舞い戻る。一年前と同じタイミングで、彼女は息を吸った。
The first anniversary
(だからこそ歌う、初めての歌を)