今日も池袋の街は日常と非日常を織り交ぜながら、来る者拒まず去る者追わず、全てを飲み込むといった様子で静かながら存在を際立たせていた。
そんな街のある一画では池袋の喧嘩人形が、新宿から足を伸ばした性悪の情報屋目がけて自販機を投げつけている。
そんな街のある国道では、巷で騒がれる首なしライダーが白バイ警官達と決死のサーキットを行っている。
そんな街のある交差点では、一見すると堅気に見えなくもない、だが纏う雰囲気が決して堅気のそれではない、スーツ姿で煙草を吹かす男が信号待ちをしている。
その男というのは、知る人ぞ知る、この街を陰から牛耳る粟楠会の幹部、四木だった。
(さっさと帰んねえと茜お嬢さんが駄々をこねてそうだ…まあ赤林が何だかんだ言いくるめて宥めてそうだが)
なかなか青に変わらない信号をちらりと一瞥し、四木は紫煙をぷかりと吐く。
普段、四木はあまり池袋の街中に出ることは少ない。
基本は事務所の中で若衆の報告を聞き、何か外に異常があれば部下を使って対処させる。よって、幹部の身でもある四木は、池袋の喧噪の中に身を投じること自体なくなっていった。
だが、今日はたまたま気が変わったのだ。
常から非日常の中に居る四木にとって、今現在一般人から見ての「日常」もあくまで非日常の一環であって、ただいつもよりは平和だなと紫煙を吐く間にふと思うぐらいだった。
その四木の手には、大きめのコンビニの袋が三つほど下がっている。
街をぶらつこうと粟楠の邸宅から出ようとした瞬間、足を掴まれた。
茜に「コンビニで売ってるお菓子がいっぱい食べたい」とねだられて、何故か四木が茜のお眼鏡にかなってしまったようだった。
にっこりと足元で微笑まれ、一幹部が組長の孫娘に叶うはずもなく。
四木は、普段あまり足を踏み入れないコンビニで菓子と煙草を大量に購入した。
目線を上げると、信号が赤から青に変わって、人の波はすでに動き出した頃だった。
四木もそれに逆らわず、煙草を吹かしながらゆっくりと歩を進める。
(――ん、)
自分とは反対側に向かう波の中に、何故かある部分だけ際立って見えた。
そこには前髪を切り揃え、長さはセミロングぐらいだろうか、金のボタンが目立つ制服姿の少女が居る。
その少女は四木からの視線に気付いたのか、俯いていた顔を上げ、目が合うと首をかしげて――小さく会釈をして四木の反対側へと歩き出した。
その姿を思わず目で追う。
ひどく見覚えがある。
この雰囲気を、四木は知っていた。
(…ああ)
なんだ、分かった。
「茜お嬢さんに似てるのか」
少女の顔と、邸宅で待っているであろう茜の顔を重ね四木は紫煙を長く吐きだす。
たまには街に出るのも悪くない、と無意識に思いながら。
次に四木の二度目の気まぐれで、少女から肩を叩かれるまで、あと――…。
ごめんなさい四木さん書きたかっただけ(終わり方も一巻ぽくしたかっただけ)
100728