暑い。
今現在部屋の温度は23℃。クーラーが効きすぎて寒いぐらいの空調の上、キャミソールを着てるものだからくしゃみが出そうだ。
手元のテーブルには手が付けられていない、氷たっぷりのアイスコーヒーがふたつ鎮座している。
それでも暑い。いや、暑苦しい。
何故かと問われれば、それは自分に覆い被さっている黒いコートを着た男のせいだ。

「臨也さん、暑いです」
「ふうん。だから何?」
「…うざやさん、マジでいざいです」
「君はもうちょっと俺に敬意を払った方がいいと思うなあ」

ふふと耳元で笑う臨也に対して、この数時間の間で何本血管が切れそうになったのだろう。
自分を客観的に見つめ、深いため息を吐く。臨也に自分から離れる気配は一向に見えない。
後ろから身を乗り出すように覆い被さられては首に負担がかかるし、まず重いし、やはり何より暑苦しかった。
第一、今の季節は夏だと言うのに未だコートを着ている臨也に、この世の常識を叩きつけてやりたい。
首に回された腕を掴んで剥がしてやろうと考えたが、どうせ無駄だろうと実行するより早く結論に行きつき、肩を落としつつ頭上の臨也を睨みつける。

「臨也さん。質問です」
「はい何でしょうか」
「一、何故夏場でも黒のファー付きコートなのか。二、何故それを室内でも着るのか。三、何故私に覆い被さったままなんでしょうか」
「一、それが俺のキャラだから。二、君への嫌がらせのために。三、君から一秒でも離れたくないからです」
「………はあ」

長い質問にも順番すら間違わずスラスラ答える臨也に、またため息が出た。
ため息を吐かれた当人は上機嫌で私の垂れた前髪を弄りだす。
もう気にしないでテレビでも見よう、とテーブルの上のリモコンを手にとって電源を入れる。
まず液晶画面から色が付き、それに一瞬遅れて音が広がっていく―はずだった。
電源を押したその瞬間、臨也にリモコンをひったくられて即座に電源を落とされた。
結局部屋は流れる音や電波に支配されずに静寂を保っている。
ポカンと口を開けてテレビ画面を凝視していると、いつのまにか臨也の唇が耳元まで接近していた。

「せっかく俺との距離が0だって言うのに、何もさせないで自分はテレビ見る気?」
「いや、何もさせないって言っても…何するんですか」
「決まってるでしょ。エッチだよ」

品のない音が鼓膜に響いたと思うと、刹那、臨也の長い舌が耳に侵入した。



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