夕焼けに染まる池袋の街並は不気味で綺麗だ。
逆光で黒く染まって行くビル群が何かの生物に見える事もあるが、その後ろから垣間見える真っ赤な空はゆらゆら燃えながら輝いている。

ああ、きれいだなあ。

そう思って空を見上げた一瞬、目の前に紫煙がぷかりと浮かんだ。
直後広がる刺激臭。つんとするこの匂いは昔から嫌いで、昔から知りすぎていた匂いだった。

「静雄、タバコ臭い」
「びっくりした。待っててくれたのか?」
「うん、静雄のために」
「…ありがとよ」

うつむいて煙草を携帯灰皿に押し付ける静雄を、腰掛けているガードレールから見上げる。
今日は仕事が早く終わる、とメールをもらったから静雄の勤める事務所まで足を伸ばしてみた。
いつもは静雄が私のマンションまで来てくれるから、たまにはいいかなとガードレールに座って待っていたのだ。
本来居る筈のない私に静雄は驚いたようで、直す必要がないのにしきりに蝶ネクタイの位置を気にしていた。
そんな様子がかわいくてかわいくて、つい口元が緩んでしまう。

「そんなに気になるの?それ」
「いや、いつもはお前んち行く前に服とかチェックしていくからクセで気になって…」
「…何それ初めて聞いたっ…!」

静雄が実はすごく几帳面なこと、前から知ってたけどそこまでしてくれてるなんて。
その健気さがすごくかわいい。
あ、多分この街で平和島静雄に対してかわいいとか思えるの、私だけだよね。

ひとり再確認をして、静雄を見つめてえへへと笑う。
静雄はそんな私を見てハテナマークを飛ばしながら首を傾げた。

「何笑ってんだ?」
「静雄、かわいいよ」
「…それは男が女に言うセリフじゃねえのか?」
「本当の事だもん、仕方ないじゃない」

口が自然と笑みを象って静雄に笑いかけると、不意に静雄の手が指に絡んできた。
いつにない静雄からのスキンシップに更に顔を綻ばせてしまう。

「お、なになに?」
「…はやく帰ろう、ぜっ」
「うん」

静雄の言葉に頷いてガードレールから降りる。ちゃんと握れるようになったから、静雄の指を絡め取って、強く握った。
握った手は汗ばんで湿っていた。いつもより高い静雄の体温が、てのひらを通して伝わる。
「静雄の手はあったかいね」そう言うとサングラス越しの目が大きく開かれて、照れる事じゃないのにさっきよりも赤くなった。

…なんでこんなにかわいいかな、この人は!
私の恋人は世界一かわいいって叫びながら池袋五周は出来る。

静雄に引っ張られながら家まで行くのは疲れるから、早足の静雄に追い付いて並んで歩いた。
夕焼けで大分隠れてはいたが、まだ静雄の顔は真っ赤だ。

「ねえ、静雄、別に急がなくても大丈夫だよ」
「俺は早く屋内に行きてえ…」
「夕焼けがすごいきれいだから、顔が赤いのもあんまり分かんないよ」

口をポカンと開いて見下ろしてくる静雄に、自分なりのとびきりの笑顔を見せる。
数秒後、意味を理解したらしい静雄は口を手で押さえながら何か呟いてるようだった。

(お前の方がかわいいだろうが…!)




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