シロウ様小説2 | ナノ








路上で時折見かけた絵描きらしき金髪の男。そこは丁度通り道で見かけるたびに目がいった。
天気が崩れない日は必ずいた姿は遠目にしていたものが、いつしか興味を惹かれるように少し近付いて眺めるようになった。
風景画や抽象画が多く、似顔絵やりますという看板もなかった。
筆遣いや色使いに力強さがあり、絵のことはよく解からないながらもそれが第一印象だった。

『お前が良ければ俺のモデルやらねぇ?』

眺めていた頭上から降ってきた声。
見上げると同時に神崎と目が合い、もう一度同じ言葉を紡がれた。

『モデルやってくれねぇ?』

誘うことに戸惑いはなかったのは、こちらは気付いてないだろうが神崎も数多いる中でたまに見かける銀髪の男がチラチラと視界に入っていた。
髪の色にかその容姿にか、とにかく目を引く人間で、間近で見てしまうと自然を声をかけていた。
互いが最初どう思ったか今となっては知れたものではないが、何かを共有する時間が増えていく中で、それぞれに足されていった“色”。
見つめる色彩を表現することも体現することもなく、ただそれはそのままにして重ねて塗り潰した。



「良さそうなの撮れたかよ」
「まぁまぁだな。見るか?」
「おう」

撮るのはあくまでも絵にする為で、そこに行って描けばいいのだろうが天気が悪くなると描けないのが難点だ。
写真にすれば実物とは多少異なるもイメージとしたものは残る。
半分は趣味だろと云われるも神崎はそうじゃないと否定する。絵も写真も一つの芸術品だ、物は違えど神崎らしさが写る物から伝わってきた。

「崖とか珍しいもん撮ってきたな。ガードレールとかも」
「無機物的なもんも描いてみようかと」
「あ、これ俺好みだ」
「欲しいなら焼き増しするぜ?」
「いつものようにそうしてくれると有り難いね」

気に入ったものがあればこうして求め、そろそろフォトアルバムがいっぱいになりそうだった。
神崎コレクションと題したそれを見せられた時には苦笑いされた。

「ところで神崎…絵の方は大丈夫か?」
「………あ?」

少し間を空けてからのぶっきら棒な返事。
モデルとしている姫川も気になる点なのか、神崎に渋い顔をされたがそこには困ったものも含んでいる。

「悪りぃな。出来もしねーのに付き合わせてて」
「乗れねー時だってあるだろ。俺のことは気にするな」
「描けてなくてもモデル代もちゃんと払う」
「だから、そういうのも気にすんなっ」

ビッと行儀悪くフォークで指した。

「お前が納得いくまで付き合うさ」
「…悪りぃな」

眉尻を下げながら薄く笑んだ口元。
チーズと合う野菜がたっぷりと入ったフォカッチャを頬張り、美味い、と感想を零す。







更に1週間後―――。この日もやはり筆は思うように進まず神崎から落胆の空気で室内が澱んだ。
まるで自らを戒めるように窓を開け放ち空気を入れ替える。

「……。」

憎たらしい空の明るさに向かって舌打ちだ。

「………。……なぁ姫か―――」

振り返るとソファーに座らせていた男は居眠りを始めて、こっくり、こっくりと縦に揺れる頭が妙に可笑しかった。
起こそうと手前で歩みを止め、ゆっくりと手が伸びた。

「……。」

一度そこで止まり肩に触れようとした手は姫川の顔へと静かに当てられる。
それから数センチばかり傾けた自身の頭はそこで静止させた。
絶対に起きるだろ。
バカバカしいと嘲り今度こそ肩へと触れては揺り起こした。

「姫川起きろ、風邪引くぞ」
「ん…。あぁ、寝てたか…」
「おう」
「部屋とか日差しがあんまりにも気持ち良かったから」
「寝てても別にいーけどよ」
「で…調子はどうよ?」

催促ではないが流れで訊ねると無言。
今日も何となく気乗りしないとの返事に優しく肩を叩かれる。

「話は全然変わるが買い物頼まれてくれねぇ?」
「別に構わないぜ。俺も用事あったからな」
「そんなことも云ってたっけ」
「急ぎか?」
「いや…そっちが終わってからでも充分だ」

そうか。と了解する言葉をもらうと姫川は早速も出かける準備を始めた。
ある意味では助かった。帰る頃合いも聞けば夕方と、やはりで救われた気分だ。
いない間に終らせてしまえ。
そう思いながらも出かけていく背中を見届けた。



+++









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -