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第三章 分派



それから一週間が経った。

何か変わったかと言えば、怒篭魂関係において著しい変化はなし。
相変わらず私は嫌われたままだ。
彼らは見かける度に鋭い視線を送ってくるし、だんだん私の中でも呆れが強くなってくる一方で、来栖嬢の演技もさらにひどくなっている。

私と目が合っただけで……ううん、私の姿を見ただけで、人目も憚らず泣き出すのだ。
そしてより一層、怒篭魂の人たちの眼光に力が入る。
なんなの、もう。

いずれ、宇崎のいないところで私は背中を刺されてしまうんじゃないだろうかと、冗談でなく本気で身の危険を感じてしまう今日この頃だ。

「ちぃ、学校はどうだ?」

朝、バジルソースのついたフォカッチャを食べながら、視線を感じたので前を向けば、そこにはニコニコ顔の兄がいた。

「どうって?」

……それにしても。
年々、兄は料理の腕が上がりすぎているような。

何を隠そう、このフォカッチャだって兄の手作りだ。
いわゆるホームベーカリーってやつ。
私が朝は軽いものを好むので、ならばと喜々としてパンを生地から作り始めたのがきっかけだ。
うん、市販のものでまったく良かったんだけどね、兄は自分が作るのだと言って聞かなかった。

今ではパスタや中華麺、うどんに至るまですべて一から手作業。
どこにそんな時間があるの?と疑問に思うこと常々、女の私より家庭的な兄は、そのうちどこかの専業主夫にでもなるつもりなんじゃないだろうか。

高校生で和食を極めてから、今は洋食や中華にエスニックと。
料理に関して貪欲な兄はちょっと怖い。

両親が揃って家を空けることの多かった家庭だから、そのせいもあるのかもしれない。

「近頃、あまり学校に行くのが楽しそうに見えないんだよな。ほら、昨日なんか、弁当箱をなくして帰ってきただろ?ちぃらしくもない」
「あーっと、それは……えへへ。ごめん」
「まあ、中学の頃から使ってるやつだし、近々買い換えようと思ってたからいいけどさ」
「……」
「お兄ちゃん、ちょっと心配だぞ?」

い、言えない。
昨日、お弁当箱を誰かに奪われてしまったなんて、とてもじゃないけど言えない。

犯人はおそらくクラスメイトの誰かだと思う。
この間から、校内でよく私物がなくなるなぁとは思っていたけど、まさか弁当箱まで消えてしまうなんて考えもしなかった。
で、その時、クラスの女の子たちがこちらを見ながら笑っていて。
そういうことか、とすぐに合点がいった。

宇崎のおかげであの三日間よりは被害は大幅に減ったものの、目立たないような些細な嫌がらせは未だ続いている。
……私の学校の生徒は、案外暇人が多いのかもしれない。
そんな風に思案してしまうほど。

学校でのことを考えて気が滅入ってしまう私は、兄の物憂げな視線に気づき、すぐに「なんでもない」と取り繕った。

兄にバレるのだけは、御免被りたい。
だって、いろいろと面倒になること必須だもん……。



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