幕間・牧瀬由貴の話




「末次。お前、余計なことしたね」

早野いちかに接触した翌日の午後、森本から末次が早野いちかを連れて学校をサボったかもしれないということを聞いた。
一応確認の連絡を入れておいたが、応答はなし。夜中頃にようやく応じたと思えば、やはり森本の言った通りこいつは早野いちかを連れて遊び歩いていたらしい。

………余計なことを。
そして俺の杞憂は現実になり、次の日彼女は学校に現れなかった。

「ええ〜、だって、いちかちゃん居心地悪そうだったんだもん。ねぇ、納得できない〜、これってそんなに怒られること?」
「………何も分かってないみたいだね、末次。あの子を夜遅くまで連れ回し、さらにはあの子の継母に喧嘩を売るような真似までして……ああ、そうだね。一度死んでみれば、その足りない頭でも理解できるかもしれないね?」
「ちょ、顔怖いよ!マッキー」
「お前と別れた後に彼女があの家でどんな扱いを受けるか、考えてみたの?」
「―――」

馬鹿な末次は今になって気づいたみたいだ。まったく、つくづく苛立たしい。そんなものも考えられないで、下手に彼女と接触するなんて愚劣の極みだ。
慎重に、それでいて確実に。俺たちは彼女の心を開かせるため、欲求に素直にさせるためにあの子の懐に入らなければならない。

「じゃあ今日いちかちゃんが学校に来なかったのって、やっぱり……」
「お前のせいだよ、末次。分かったら二度と勝手な真似はしないで」
「………」

黙り込んでしまった末次を捨て置き、俺は森本を連れて学校を出た。教師には適当に言い訳をしておく。目的地は他でもない、早野いちかの家だ。
今の時間なら、家には彼女だけしかいないだろう。

「牧瀬、俺はお前がこんなにも過保護だったなんて知らなかったぞ」

彼女の家のインターホンを鳴らしたとき、思い出したように森本が呟いた。
過保護?この俺が?そんなことはないと否定しようとして、行動が伴っていないことに気がつく。
早野いちかの家に向かうのは『計画』ではもっと親しくなってからのはずだった。今こうして家の前にいるのは、末次が馬鹿な真似をしたせいでその後彼女がどうなったのか……凄惨な目に遭っていないかどうかを確かめるためだ。否定の要素が、見当たらない。

「………冗談言わないでほしいね」
「おい、牧瀬?」

俺は踵を返した。静止の声をかける森本に「後はよろしく」と無責任な言葉を投げかけて。

そうだ。この際だ、末次も呼んでやろう。いずれは彼女に謝らせる場も設けなくてはいけないのだから、ついでに呼び出してしまえばいい。
電話で末次を彼女の家に向かわせ、三人で外食をとることになったと聞いた俺は、少し考えてその店に乗り込むことにした。

行動が意味分からない?そんなの、俺自身そう思ってる。






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