「僕たちはね、かなり身勝手な人間なんだよ、いちかちゃん」

そう言って、道化染みた笑顔を浮かべるのは末次先輩だった。


結局、お金がないからと断ろうとした私に先輩方は自分たちが出すと言って聞かず、折衷案として代金を先輩たちに立て替えてもらうことになり、今は森本先輩お気に入りの和食のお店にいる。
他愛ない話……というより末次先輩が一方的に喋り倒して私と森本先輩が時たま相槌を打つだけだったが、三人での食事は思いのほか会話も尽きず楽しめた。

まるで自分が特別になったかのような時間に思わず我を忘れ、由貴先輩も来てたらなと欲張りなことを考えてしまう。柄にもないのは分かってる。でも、先輩たちを前にすると私はどうしても貪欲になってしまうのだ。

そんな中、末次先輩がふと溢す。

僕たちは身勝手な人間なのだと――。

「どうしたんですか?急に……」
「んー、別にっ。深い意味はないよ。ただ僕たちは独善的でね、まあ僕たちって言うよりマッキーがなんだけど」
「は、はぁ」
「――いちかちゃんを助けたいと思ってるの」

その台詞に私は目を見開いた。

「たす、け……?」

なんで。誰を。どうやって。
……何から?

空中を彷徨いだ視線が森本先輩に向かう。森本先輩は困ったように笑っていた。

「あの……」

えっと。末次先輩の言葉の意味が、あまりよく分からない。

「いちかちゃん自身が救済を望んでいるのかどうかは別として、ほら僕たちエゴイストだから。勝手にいちかちゃんを救っちゃいたいなぁって計画してるの」
「計画、ですか」
「うん。だってそうでしょ?客観的に見て、いちかちゃんの立場って相当酷いもんだよ。家も学校も……このままでいいなんて到底思えない。マッキーがいちかちゃんに変わりたいかって質問してたじゃん?でもいちかちゃんはあまり乗る気じゃなさそうだったから、昨日は僕の独断で遊びに連れ回しちゃったの。そしたら少しは本音が聞けるかなって」
「……」

そうだったんだ。そういえば確かに昨日、由貴先輩に「このままでいいと思ってる?」と聞かれたことがあったような。
でも、どうして赤の他人である私にそこまで……?
先輩たちがこんなにも優しい理由が分からず、私はただただ困惑してしまう。

「ね、いちかちゃんはさ……」
「―――その話の続き、俺がしてもいい?」

神妙な顔つきで切り出した末次先輩の言葉を遮ったのは、いつの間にか座敷の近くに立っていた由貴先輩だった。

「ゆ、由貴先輩」

なんで?帰ったはずじゃ……。

「やぁーっぱり来た、マッキー。遅いよ!いちかちゃんと森もっちゃんを二人きりにさせたくないからって僕を呼び出すくらいなら、初めからマッキーもいちかちゃんの家にお邪魔してたらいいのに、途中で帰るなんてワケの分かんないこと――」
「末次、一回黙ろうか。その口縫うよ」
「……」

由貴先輩の肩を抱いて軽快に喋っていた末次先輩は、たった一言で蛇に睨まれた蛙のように大人しく席に戻った。
す、すごいな由貴先輩。あの末次先輩を一瞬で黙らせてしまうなんて。

「何か頼むか?牧瀬」
「いらない」

森本先輩の隣に座った由貴先輩はメニュー表も受け取らず、まっすぐにこちらを射抜いてきた。
思わずドキリと心臓が跳ねる。

「な、なんでしょうか……」
「ここに来たのは、単なる気まぐれ。この二人じゃ頼りないと思っただけだから」
「は、はい」
「それでさっきの続きだけど、末次の言った通り俺は独善的で―――あんたの意思に関係なく、あんたの置かれている環境を少しでもマシなものにしたいと考えている。だからこれはあくまでも確認に過ぎないけど。
あんたは、変わりたいと思う?」

“今の自分から―――”






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