くだらなくない

昼休憩が終わった。
強子は可愛らしいチアガールの格好に身を包み、ほくほくと嬉しそうに頬を緩めている。


「・・・随分とご機嫌ですわね、強子さん」


ズーンと暗く沈んだ表情のまま、八百万が強子に咎めるような視線を送った。
そんな彼女の服装も、強子と同じくチアガール。1−Aの女子は皆、同じようにチア衣装(しかも腹出しで露出度が高い)であった。


「峰田さん!上鳴さん!強子さんも、騙しましたわね!?」


目を吊り上げて怒る八百万からふいっと視線をそらすと、峰田たちと、互いに親指を立てあった。
昼休憩が終わる前の、彼らとのやり取りを思い返す。


――午後は女子全員、ああやって応援合戦しなきゃいけねぇんだって!

――そんなイベントがあるなんて、聞いてませんけど・・・

――信じねぇのも勝手だけどよ・・・相澤先生からの言伝だからな。

――あー、そういえば、先生そんなこと言ってたかも・・・?

――本当ですの強子さん!?でしたらもっと早く言ってください!


当然、嘘である。
このだだっ広いスタジアムにおいてチアの格好しているのは、本場アメリカから呼ばれたチアリーダー達と、1−Aの女子7名のみ。


「峰田さんの策略に毎度ハマってしまう私もいけないのですが、強子さんまで彼らを助長するようなこと言うなんて・・・卑怯ですわっ!」

「アホだろ、アンタら・・・」


八百万は悔しそうにうな垂れ、苦笑を浮かべた麗日になだめられている。
そして耳郎は手に持っていたポンポンを地面に投げつけると、羞恥から顔を赤らめたまま強子を睨みつけた。


「もう、そんな怖い顔しないで笑って笑って!?私は皆のために良かれと思って、峰田くんの策にのっただけなんだよ」

「はあ?また強子はわけのわからないことを・・・」


眉根を寄せる耳郎に、強子はフフンと上機嫌に笑う。


「言ったでしょ?体育祭は人気取り合戦!プロの目にとまるように、アピールできることは何でもすべきだって!」

「つまり、この格好もアピールに繋がるいうこと?」


ケロっと首を傾げた蛙吹に、強子は笑顔で頷いた。


「可愛さアピールだよ!女性ヒーローとして、すごく大事なことだと思うんだよね!ミッドナイトだっていつもメディア意識してるじゃない?それに、」


すたすたと数歩進んで距離をとると、くるりと振り返って、ニコリと可愛らしい笑みを浮かべた強子。


「「「?」」」


強子がなにをする気なのかと、A組の女子たちは彼女を目で追う。
みんなの視線をあびる中、彼女はゆっくりと片足に重心を寄せると、くびれが強調された腰に片手を添える。そしてもう片方の手で、顔にかかった髪を耳にかけて、小さく首を傾けた。
女性らしい体のラインがよくわかる体勢で、女性らしい仕草で、女子から見ても思わず見入ってしまうような動き。その表情は、子供らしい無垢な笑顔ともとれるし、女の性を思わせるような妖艶な笑みにも見えた。
―――すると、報道陣の観戦席から一斉に、バシャバシャとカメラのシャッター音が聞こえてきた。


「こういう“若い頃”の映像や写真って、将来私たちがプロヒーローになった時、ヒーロー特番とかでお宝映像としてよく使われるんだよね。それで、『このヒーローって学生の時から可愛かったんだ!』とか言われて、さらに人気でちゃったりするんだよ!だから、みんな可愛く映っておいた方がいいよ?笑顔で、ね!」


そしてくしゃりと無邪気な笑みを見せると、強子はカメラを構えた報道陣にピースサインを向けている。
そんな彼女に呆気にとられていると、やがて葉隠が楽しそうな笑い声をあげて、強子のすぐ隣へと駆け寄った。


「まァ本戦まで時間あくし、張りつめててもシンドイしさ・・・いいんじゃない!?やったろ!!」

「透ちゃんも、好きね」


強子と葉隠、二人で観客席に向けてポージングし始めた。
二人できゃっきゃとはしゃぐ様子は、さながらSNS向けに自撮りにいそしむ放課後の女子高生だ。天下の雄英生とは思えぬ、浮かれぶりである。


「よぉーっし!頑張って可愛く映るぞぉー!」

「(この子が言うと、考えさせられるわ・・・)」


葉隠の姿は透明だけれど、それでも、彼女が楽しそうな笑顔を浮かべていることが容易に想像できる。
そんな様子を見ていた残す1−A女子たちも、可笑しそうに笑みをこぼすと、みんな一緒になってポンポンを振ったのだった。





一見くだらないように思えることだとしても。
周りから理解を得られないようなことでも。
アピールできることは、何でもすべきなんだと思う。


「俺・・・辞退します」


最終種目のトーナメントの組み合わせ決めで、尾白の発言に会場がざわついた。


「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かな事だってのも・・・!でもさ!皆が力を出し合い、争ってきた座なんだ。こんな・・・こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて・・・俺は出来ない」


強子はそっと目蓋を伏せると、深く息を吐き出した。
尾白に続いて、B組の庄田も声を上げる。


「僕も同様の理由から棄権したい!実力如何以前・・・何もしてない者が上がるのは、この体育祭の趣旨を相反するのではないだろうか!」

「なんだこいつら・・・!男らしいな!」


切島が拳を握りながら、くぅっと感動している。
他の誰もが興味深々に見守る中、主審のミッドナイトが口を開いた。


「そういう青臭い話はさァ・・・・・・好み!!庄田、尾白の棄権を認めます!」


ミッドナイトの好みで決定が下された。
やはり、当事者の一人として、強子は何とも言えない気持ちになる。同じ騎馬だった尾白も庄田も、心操の個性で記憶がないからと辞退してしまったけれど・・・


「身能さん、あなたはどうする?」


ミッドナイトから問われ、ハッと目蓋を押し上げた。
周りをぐるりと見まわすと、誰もが強子に注目していた。


「私は・・・」


騎馬戦で活躍ができなかった者は、自己申告が求められるような空気。
己の非力を認めることが美徳だとでもいう、そんな風潮。
何の成果も残せていない者は、辞退するのが分相応だと責めるような視線。
尾白たちのように、心操の個性にかかっていた強子も辞退するんじゃないか?そう望む大衆が、強子の言葉を待っている。それでも、


「私は、辞退しません!絶対やります!!」


強子の答えなど、それに限る。
騎馬戦の間、心操の個性にかかっていたからって、それがなんだ。彼の個性にかかった状態だろうと、強子のいたチームが勝ったことは事実だ。
ラッキーで得たチャンスだろうと、逃しちゃいけない。そのラッキーを呼び込んだのは自分なんだ。
辞退することを望んだ彼らの、プライドを重んじる気持ちも理解できる。
それでも強子は、アピールできることは何でもすべきだと思うから。
自分の強く想うビジョンのために、なりふり構ってなんかいられないんだ。




くじ引きの結果、対戦の組み合わせは、強子の予想していた通りとなった。
緑谷と心操、轟と瀬呂、塩崎と上鳴、飯田と発目、芦戸と強子、常闇と八百万、鉄哲と切島、麗日と爆豪。
強子の初戦の相手は、芦戸である。
トーナメント進出者にA組が多いから仕方ないが、最初からクラスメイトの女子と当たるのは少々心苦しい。

とはいえ、本戦の前にレクリエーションが行われるため、トーナメント開始までにはまだ時間がある。
A組女子たちは、レクの時間中はチアガールの服装のまま応援しようということになり、1−Aに用意された観戦席へと移動した。


「うへぇ・・・借り物競争のお題、予想はしてたけど結構エグイね」


観客席からフィールドを見下ろすと、峰田が『背脂』というお題にあたって絶句しているのが見える。ランチラッシュのもとまで走ればあるかもしれないが、少なくともこのスタジアム内に背脂はないだろう。
そして、このスタジアムの構造が、借り物競争の難易度をあげているように思う。競技を行っているフィールドより、観客席はかなり高い所にあるため、観客との意思疎通が難しく、借りたい物が何かを伝える事が困難。それに、借りる物が壊れやすいものだと、貸すことに躊躇してしまいそうだ。


「参加してたら、それはそれで楽しかったかもなぁ」


体力面を考慮してレクリエーションには参加しなかったが、そこをあえて参加して強子の存在をアピールしても良かったかもしれない。


「・・・さすがですわね。私にはそんな余裕、ありませんわ・・・」


借り物競争を見ながら、固い表情の八百万が言う。彼女の緊張が、手にとるように伝わってくる。
強子よりずっと優秀なくせに、何をそんなに不安に思うことがあるのだろう。
・・・いや、彼女は賢すぎるからこそ、自分の弱い部分や相手に負ける可能性など、たくさん見えてしまうのか。
強子は柔らかく笑みを浮かべると、八百万の肩に腕をまわして彼女を引き寄せた。


「っ強子さん!?」

「私はね、百ちゃんが羨ましいんだよ」

「え・・・?」

「百ちゃんは、全国のプロたちが喉から手が出るくらいに欲しがる人材だもん」

「・・・そう、でしょうか?」

「そうだよ!さすがは推薦入学――雄英が欲しがるだけはあるよね。雄英の“お情け”で補欠入学になった私とは、えらい違いだ」


彼女と友達になって、たくさんのことを話して、共に過ごす時間が増えたけれど・・・改めて彼女と自分の差を考えると、とてつもない落差がある。


「そんな考えすぎないでいいんだよ!百ちゃんは皆から求められる存在だって、私が保証するから!だから自信をもって、胸を張って臨もう!!今の私たちの実力を見てもらおう?」


彼女の頭をわしゃわしゃと撫でれば、彼女は大人しくそれを甘受しながら頷いた。
頬を赤く染めて、瞳をうるませた彼女は「ありがとう、ございます・・・」と小さく述べる。
・・・くそ可愛い。ねらったわけでもないのに自然とそれができるんだから、ずるいよなぁ。強子の計算だかい可愛さとは違う、天然モノだ。


「それからさ、私が一回戦目で勝って、百ちゃんも一回戦目で勝ったら・・・私たち二人が戦うことになるけど、その時は・・・」

「ええ、わかってますわ。その時は、恨みっこなしの真剣勝負!」


いつもの凛とした彼女の声。どうやら、だいぶ不安は晴れたらしい。
強子が引き寄せていた彼女を放すと、彼女と互いに正面から見つめ合い、どちらともなく口元に笑みを浮かべた。


「おーい、身能さん、身能さーん!」


ふいにどこかから呼ばれ、きょろきょろ見回して声の主をさがす。


「こっちこっち!」

「・・・あ、」


声の主は、フィールドに立って腕を振りながら、観客席にいる強子を見上げていた。
強子は椅子から立ち上がると、観客席の手すりから身を乗り出してその人物へと声をかける。


「物間くん!どうかしたの!?」


意外な人物の登場に驚く。
フィールドを見渡せば、どうやら借り物競争の最中らしい。物間もフィールドにいるということは、借り物競争に参加しているのだろうが・・・B組ではなく、A組の強子に声をかけるというのは、いったいどういう了見だろう。


「ちょっと、借りたいものがあって」


やはりというか何というか、借り物を探し中のようだ。
しかし、借り物のお題はなんだろうか?強子が首を傾げると、彼は笑みを深めて、お題の書かれたカードを強子に見えるように掲げてみせた。


「!」


それを視界に入れて、お題が何かを理解した強子が目を見開いた。


「『好みのタイプの異性』なんだけど・・・一緒に来てくれる?」

「・・・ブッハ!」


思わず吹き出した。そして腹を抱えて笑い出す。マジか、物間くん。
本当にこの人は、やることなすことが予想外で、ぶっ飛んでて面白い。
笑いが止まらない強子に、物間の笑顔がだんだん引き攣っていく。


「・・・それで、来るの?来ないの?」

「いや、ごめんごめん・・・いま行く、すぐ行く!」


笑いすぎて出てきた涙をぬぐうと、強子は手すりに足をかけた。
それと同時に、フィールドから強子を見上げていた物間がぎょっと目を見開く。
強子の背後、観客席の椅子に座っている八百万も慌てた声をあげた。


「強子さんッ!?ここは2階ですわよ!」

「うん、平気!」


ひょいっと手すりを越えて、数メートルの高さからフィールドへと飛び降りた。
2階といっても、雄英のスタジアムにおける2階は、通常の家屋のそれよりも高さがあるらしい。
地に足をつけると、思っていた以上に強子の足に痛みが響いた。足底から膝までビリビリとした痛覚が残る。


「つ〜ッ!」


強子は痛みに耐えるように、着地した体勢から動かずにじっと固まっている。
観客席にいる八百万が「だから言ったのに・・・」と額を押さえてため息をついた。そして、強子の目の前にいる彼も、呆れの色を浮かべた表情で見ている。


「何やってるんだ、君は・・・」

「だ、だって・・・借り物“競争”だし、急いだほうがいいかなって・・・」


痛みのせいで出てきた涙を浮かべ、物間に言いわけする。スタジアムの階段を使って降りるより、飛び降りたほうが早いと思ったのだ。
彼はきょとんと強子を見つめたあと、やれやれとかぶりを振ってため息をこぼす。


「まったく・・・君はこのあとトーナメントを控えてるんだから、気を付けなよ」

「おっしゃる通、りッ!?」


突然、体が宙を浮く感覚に、驚いて身をすくめた。
すぐに強子は、物間にお姫様だっこされているのだと理解する。


「もっ物間くん!?」

「借り物“競走”なんだし、君の足の痛みが引くのなんて待ってられないからね」


だから、お姫様だっこして連れていくって?
強子を抱え、ゴール地点に向かって走り始めた物間を見つめ、ぱしぱしと瞬いた。
本当に彼の行動は予想外にぶっ飛んでいて、呆気に取られてしまう。


「・・・ゴールしたら、君はリカバリーガールのところに行きなよ。こんなくだらないことが原因で、トーナメントで勝てなかったなんて負け惜しみは許さないからね」


ちらりと強子の足元に目を落として、物間が真剣な表情を見せる。
そんな彼を見て、気づかないわけがない。彼は強子のことを心配してくれているのだ。勝手に飛び降りて、勝手に痛がっている愚かな強子のことを。
けれど、ここまでした強子のためにも、きちんとゴールすることを前提に考えてくれていることが嬉しい。


「・・・物間くんって、優しいよね」

「は?なに、急に・・・」


きゅっと眉根を寄せて、不機嫌そうに強子を睨むが、彼の頬はいつもより血色が良いようだ。照れ隠しかよ、可愛い奴だな。


「だいたい、その服はどういうつもり?そんな恥ずかしい格好を晒してさ!」


物間の腕におさまっている強子は、相変わらずチアガールの衣装だ。雄英のジャージよりもずっと布地の面積が少ない。物間はふいっと強子から視線をはずした。
なんだよ照れてんのか、可愛い奴め。


「目立ちたがりもほどほどにしたら?体育祭という大事な舞台だっていうのに、A組の女子はふざけてるの?」

「ははっ、そうだねえ・・・B組女子より目立っちゃって、ごめんね?」


へらへらとだらしない笑顔で笑っていると、物間が腹立たしげに舌打ちをした。


「・・・ほんとに、君ってムカつく」

「え、」


その物間の言葉は、軽口でも、いつもの煽りでもなく、本気のトーンで呟かれたように思う。
物間とはそれなりに友好的な関係を築いていたと考えていた手前、今きこえた言葉が信じられなくて彼を見つめた。


『ゴール!1位、B組の物間!!』


どうやら、一着でゴールテープを切ったらしい。そのアナウンスと同時にワッと歓声があがる。
物間は強子をゆっくりと地面に下ろすと、ゴール近くに控えていた係員へ、借り物競争のお題のカードを渡そうとする。だが強子は、物間の腕をパシッと掴んで止めた。


「ちょっと待った・・・ムカつくって、『好みのタイプの異性』に言う言葉じゃないよね?」


笑顔を張り付けたまま、威嚇するように口調を強めて、物間に問う。
ムカつくだなんて、言われて気分のいい言葉じゃない。
人に協力をあおいでおいて、そのお返しがこの言い草とは、あんまりだ。気に食わないぞ。
物間の手を掴む力を強めて、先の一言を取り消さないかぎりお題カードを提出させないぞと、言外に匂わせる。


「・・・顔はわりとタイプだけど、中身が気に入らないね」


さいですか。
物間の返答に、強子の口元がヒクりと反応する。
見た目は良くても、中身に難ありなのは・・・お前のほうだろうが!

引きつった笑顔のまま怒りに震える強子と、眉根を寄せ、静かに強子を見下ろしている物間。
係員は、お題と借り物が合致しているかをチェックしなくてはいけないのに、お題のカードを受け取れないまま、困ったように二人を交互に見つめた。


「だって、バカみたいじゃないか。君の行動は、とても理解できないよ」


物間に言い返してやろうと思ったが、彼が言葉を続けたので強子は口を噤んだ。


「メディア意識とか、目立ってアピールしようだとか・・・くだらないことにまで精を出して、馬鹿ばかしい」


そう言う物間の表情には、いつものような鼻につく笑みもない。無表情で、睨むように強子を見ていた。


「全力で、本気で、って・・・そんなに必死にすがりついて、みっともないと思わないのかい?身体がボロボロになるまでトレーニングしたり、足を痛めることも厭わずにレクリエーションに参加したり、なんにでもすぐ躍起になってさ・・・そのわりに負けてばかりで、いいとこ無しじゃないか!身の丈ってものを少しは考えたら?正直、見ているこっちがイライラする。目ざわりなんだよ!」


初めて聞いた彼の本音に、強子は言葉を失った。
今まであまり考えないようにしていたけれど、彼の姿勢と強子の姿勢は・・・正反対なものだ。
賢く、したたかに勝利を奪おうとする物間に対し、真正面から勝利を取りにぶつかっていく強子(しかも強子は、勝利を取り逃してばかり)。
彼から見たら、強子という奴は到底理解できない――目ざわりで、気分を害する存在なのだろう。


「・・・みっともない、か」


物間の言葉を繰り返し、自嘲の笑みを浮かべる。


「そうだね。確かに、物間くんの言う通りだ。物間くんの言うことはいつも的確だよね」


彼から指摘されることは、的確な判断であることが多い。
いつだって彼の指摘によって、強子は自分の感覚のズレに気付かされ、ドキリとするのだ。
今回もそうだ。自分はいつからこんなに、暑苦しくて余裕のない、イノシシのような性格になってしまったんだろうって。


「私もね、自分のことをみっともないって思うよ。くだらないことに精を出して、バカみたいだ、ってね。出来ることなら、もっとクールに余裕ぶっていたいんだけど・・・それでも必死にすがるのは、そうしないと置いていかれるから。そうしないと、みんなと対等でいられないから」


例えば強子がチート個性持ちだったなら、もっと余裕ぶった態度で、周りの奴らを嘲るように蹴散らしていたんだろうけど。
でも、強子のシンプルでありふれた個性では、できることに限度がある。
強子が彼らと張り合うには、人々に求められるプロヒーローになるには・・・できることを全力でやっていくしかない。
本気でぶつかるからこそ、その先の道が開けるはずなんだ!


「悪いけど、周りに“どう思われるか”なんて、気にしてられない。それより自分が“どうなりたいか”が大事なの。だから私は・・・みっともなく、あがくよ。くだらないと思えることでも、やれることは何でもやる。何もしないより、ずっといいもん」


猪突猛進、あるのみだ。


「それに物間くんだって、A組に勝てるなら手段を問わないでしょ?姑息な手段をつかってでも、醜い争いをしてでも、勝ちたいって思うでしょ?くだらないことでも、A組には勝ちたいんでしょう?」

「!」


強子の問いかけに、目を見開いた物間。
彼だって勝利に執着している人間だと、強子は知っている。A組に並々ならぬ嫉妬心を燃やし、目の敵にしてるじゃないか。
したり顔で物間を見つめていると、彼は眉尻を下げてため息を吐いた。


「やっぱり、君ってムカつくよ」


やはり・・・分かり合えないか。
強子は少しだけ残念な気持ちになって俯いた。


「・・・でも、君の考えてること、少しだけわかった気がする」


小さくつぶやかれたその言葉に、強子は勢いよく顔を上げた。


「さて、この“お題”と“借り物”は合致しているようだし、僕は順当に1位をとれたってことでいいよね」


物間はいつもの鼻につく笑顔を浮かべると、係員へと『好みのタイプの異性』のお題カードを返し、代わりに「1位」のフラッグを係員から奪いとった。
ぽかんと呆けていると、物間はそのフラッグで強子の頭をこつんと軽くたたいた。


「次は、君の番」

「・・・え?」

「まあ、1位は到底無理だろうけどさ、せいぜい足掻いてみなよ・・・トーナメントで身能さんがみっともなく戦うところ、見ててあげるから」


一拍おいた後、物間の発言に再びブハ!と吹き出すと、腹を抱えて笑い声をあげた。
どうやら、強子の人となりを知った上でも、彼にとって『好みのタイプの異性』だと認めてもらえたらしい。
ついでに、トーナメント戦は強子のことを応援してくれるらしい。
ただのツンデレか、ほんと可愛い奴だよ・・・!

その直後、二着、三着とゴールした人達から「こんな所でラブコメしてんじゃねえ!」と怒鳴られたのも、いい思い出だ。










==========

お姫様だっこ中は、夢主の個性をコピーしていた物間くんでした。マジ便利。
最強主も好きだけど、うちの夢主は成長過程にあるので、最強とは程遠いです。ごめんね、ひたすら頑張れ!

そして、時おり出てくる格言は、管理人が実際に言われたありがたいお言葉たちを使用しています。自己啓発的な夢小説を目指したい。新ジャンル(笑)


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